著者
髙木 康文 福田 治久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.173-180, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

本研究の目的は,MRSA感染症における追加的医療資源(入院日数・出来高換算医療費)の推計である.  対象は調査病院を2012年12月~2014年12月に退院した患者で,解析手法はMRSA感染有無を目的変数にしたロジスティック回帰によって推定される傾向スコアによるマッチング法を用いた.傾向スコア推定後,DPC10桁が同一でスコアが近似するMRSA感染者と非感染者を1対1でマッチングした.また,時間依存バイアスに対処したマッチング法も併せて行った.両者の医療資源の差異の平均から追加医療資源を算出し有意差の検定は対応のあるt検定を用いた.  解析対象症例数は24,538例で,感染者数は47名であった.MRSA感染症による入院日数の延長は時間依存バイアスに対処した場合:13.1日(95%信頼区間3.7日–22.4日,p=0.008)および医療費の増加は107.0万円(31.7万円–182.2万円,p=0.007)であり,時間依存バイアスに対処しない場合:21.2日(95%信頼区間11.7日–30.8日,p<0.001)および医療費の増加は160.7万円(64.3万円–257.0万円,p=0.001)と算出された.  本研究は,傾向スコアを用い時間依存バイアスに対処したマッチング法でMRSA感染症による追加的医療費を推計した.結果,時間依存バイアスに対処しなければ結果を過大評価することが明らかとなった.本推計値は感染制御における費用対効果を計る資料として活用できる.