- 著者
-
中瀬 朋夏
髙橋 幸一
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.146, no.3, pp.130-134, 2015 (Released:2015-09-10)
- 参考文献数
- 21
生薬・植物由来の化学物質フィトケミカルは,経験的に優れたがん抑制作用を持つことが知られていたが,近年,がん予防・治療に対するエビデンスが明らかにされてきた.なかでもセスキテルペノイド類については,日本で急激に増加している乳がんに対して,抗がん作用機序の解明や,ナノテクノロジーを用いたがん組織への送達技術の開発が進み,安全で有効性の高い乳がん治療戦略の開発が注目されている.欧米で関節炎や偏頭痛の治療に使われているフィーバーフューというナツシロ菊の葉や花から抽出された主成分であるパルテノライド(PLT)は,転写因子NFκBの作用を強力に阻害する結果,オートファジーを伴う細胞死を誘導し,抗がん作用を発揮する.近年,PLTはまた,選択的にがん幹細胞増殖抑制作用を持つ小分子化合物として初めて同定され,がん幹細胞の撲滅による新しい乳がん治療法に有用である可能性が明らかにされた.他のセスキテルペノイド類においても,構造中のendoperoxide bridgeと鉄イオンとの反応によりフリーラジカル産生能力を持つマラリア特効薬,アルテミシニンやその誘導体において,がん細胞選択的な細胞毒性作用を発揮する.さらに,アルテミシニン誘導体の機能を維持したまま,がん組織への集積性と細胞内送達効率を高めたpH感受性アルテミシニン誘導体を内包するナノ粒子製剤が開発され,乳がん担がんマウスにおいて,高い腫瘍形成抑制作用が示された.薬理学的研究から臨床応用へ向けた薬剤学的な観点を含めた多角的なフィトケミカルのがん研究によって,安全で有効な乳がん治療法の開発が期待される.