- 著者
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髙橋 浩伸
- 出版者
- 一般社団法人 芸術工学会
- 雑誌
- 芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
- 巻号頁・発行日
- vol.77, pp.158-165, 2017 (Released:2019-02-01)
筆者は、これまで美的空間創造のための基礎的研究として、環境心理学のフィールドにおいて「人間-環境モデル」に基づき、建築空間における美的価値観の研究を続けてきたが、現代の建築的テーマとして、“ 地域性” や“ 歴史性” などが重視される中、その地域ならではの風土や文化・思想にあった美的空間を創造するためには、西洋の美とは違う、日本の特徴的な美を理解・把握しなければならないと考えた。
本研究は、筆者のこれまでの既往の研究を補完するものであり、美的空間創造のための基礎的研究と位置付けられ、その根本となるべき日本の美の概要と特徴を知るための研究と言える。具体的な本研究の内容は、国語学における知見を基に、古代から現在までの日本の美的言葉の時間的推移を調査・整理し、その構成モデルを作成することで、建築的視点や既往研究との比較検討を行い、日本の美の概要と特徴を把握することを本研究の目的とする。そのために、まず日本の美に関する言葉に着目し、国語学による知見を基に、古代からの現代においての時間推移と意味・内容の変遷を調査することとした。その結果まず美を表す言葉は、「くわし」→「きよら」→「うつくしい」→「きれい」と移り変わってきたことが理解でき、美的言葉の時代推移が把握できた。また、日本の特徴的な美的言葉に注目してみると、「なまめかしい」「こころにくい」「もののあわれ」「さみしい」など、今日では直接的に美を表現する言葉としては、理解しづらいような言葉が、古の日本人が持っていた、さりげない深い配慮を尊び、決し
て誇張しないという奥ゆかしさの美であり、今日の日本人が失いかけている美の言葉として浮かび上がってきた。
また、「うつくしい」や「きれい」などの日本において美一般を表す言葉に関する共通する意味合いとして、清潔さ・明瞭さが見いだせるが、これらは、筆者の既往研究における、インテリア空間に関する現代日本人の美的価値観として多くの人が挙げた『シンプルである』『物が少ない』などと合致し、日本人の美的概念の特徴があらためて確認された。
更に今後は、本研究で明らかにされた「現代の日本人が失いかけている美の言葉」や「現代の日本人に受け継がれている特徴的な美の言葉」における美的言葉に着目し、それを建築的空間に落とし込み、日本人が持つ特徴的な美的概念に応じた、美的空間創造のための基礎研究を続ける予定である。