著者
髙﨑 章裕
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

本研究の目的 基地問題を含めた沖縄の環境問題研究については、多くの場合、保護・保全という側面ばかりが強調されてきた。それは、沖縄の豊かな環境や生物多様性が乱開発や基地建設に脅かされることで、「現場」における緊急な保護・保全の対応が求められたからである。言い換えれば、市民が「現場」での対応に追われたことで、環境と地域住民のローカルな関係性が評価されることは少なかった。そこで本研究では、沖縄県国頭郡東村高江におけるヘリパッド建設反対運動を事例として取り上げ、座り込み運動がもつスケールの重層性に注目しながら、どのようなアクターが「高江」といかなる関係性を持って運動を展開していったのかについて明らかにすることを目的とする。高江ヘリパッド建設問題 研究対象地域である沖縄県東村高江区は、沖縄県北部のやんばると呼ばれる地域に存在する。やんばるとは、イタジイを主とした亜熱帯照葉樹林に包まれ、固有種を含む多種多様な生物によって特異な自然生態系を形成し、国指定特別天然記念物ヤンバルクイナ、ノグチゲラなども生息しており、やんばるの国立公園化と世界遺産を目指す取り組みもおこなわれている。高江の世帯数は約60戸、人口は約150人で、人口の約2割が中学生以下である。このやんばるの森では、1957年よりアメリカ海兵隊による北部訓練場の使用が始まり、その規模は総面積約7,800ヘクタールにも及ぶ。ベトナム戦争時には、高江区住民をベトナム現地の住民に見立てて戦闘訓練が行われた地域でもある。1997年のSACO合意によって、北部訓練場の約半分(3,987ha)を返還する条件として、国頭村に存在するヘリパッドを東村高江へ移設することが計画され、2007年に那覇防衛施設局(現沖縄防衛局)によって工事が着工されることになる。高江区は区民総会によって二度にわたる反対決議を行っているにも関わらず、工事が進められたことで、住民は2007年7月から座り込みをはじめ。現在もなお続けている。座り込み運動の展開とスケールの重層性 高江における座り込み運動はまず「ヘリパッドいらない住民の会」による「地元」の住民によるものが挙げられる。有機農家や伝統工芸、カフェ経営など、より静かな環境を求めて高江に移り住んできた家族世帯で構成されており、日々の暮らしと密接なつながりがあるという点で「生活環境主義」に近い立場と考えられる。次に挙げられるのが、労働組合や政党の運動組織などの組織的動員によるもので、例えば、社民党・社大党系の社会運動団体である沖縄平和運動センター、共産党系組織による統一連、大宜味村九条を守る会など、左翼活動家による反基地運動としての座り込み運動も行われている。またやんばるの森を守るために、環境影響評価の再実施を求める沖縄環境ネットワーク、奥間川流域保護基金、沖縄・生物多様性市民ネットワークといった環境運動としてのアプローチも見られる。さらに移住者・旅行者を歓迎するという高江の地域性も相まって、非正規雇用や無職の若者、バックパッカーといった者たちが高江の情報を得て、インフォーマル・セクターとして高江集落内で住民と共に労働作業を行いながら、座り込みにも参加するというケースも数多く見られることも高江の運動の特徴である。その大きな影響を与えているのが、音楽やアートといった文化的アプローチから高江の現状と座り込み運動の意義を全国に発信していく地元アーティストを介した全国的なネットワークとイベントの企画である。このように高江における座り込み運動は、「高江」という極めてローカルな場所にも関わらず、運動のアクターや性質に応じて、重層的な側面を有していることが明らかとなった。本報告では、高江の事例におけるスケールの重層性についてさらに詳しい考察を加えたい。