著者
鮎川 勝彦 前原 潤一 上津原 甲一 島 弘志 有村 敏明 高山 隼人 藤本 昭
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.92-98, 2006
被引用文献数
2

はじめに:救急患者の予後を左右する因子として,患者要因,病院前救護体制,病院の機能がある。緊急を要する疾患において,発症から治療までの時間を短縮できれば,救命率があがると思われる。本研究では救急車搬送時間が短ければ,予後が改善するという作業仮説を立てた。この仮説を立証するために,九州の6病院に救急車で収容された患者データを検討した。方法:6病院に救急車搬送された急性心筋梗塞(AMI)及び不安定狭心症(UAP),くも膜下出血(SAH),脳梗塞(CI),脳出血(CH),消化管出血(GIB),大動脈解離(AD)の7疾患について,retrospectiveに集計し,救急車搬送時間と予後との関連を統計解析した。結果:これらの疾患5,247症例のうち,入院後30日目の生存,自宅退院が確認でき,現場から直接搬送された患者で重症度分類できたものは1,057例(AMI201例,UAP49例,SAH217例,CI405例,CH114例,GIB45例,AD26例)であった。各疾患を重症度分類し,搬送時間との関連を調べた。AMI重症例(Forrester分類IV群)においては,搬送時間と入院後30日目の自宅退院率との比率の検定で,搬送時間が短ければ自宅退院率が高いことが推測できた。搬送時間を10分刻みにして,30日目自宅退院率を解析した結果,y=2.9619e<sup>-0.07x</sup> (R<sup>2</sup>=0.9962)の指数関数曲線に高い相関で回帰した。考察:AMI重症例では入院30日目の自宅退院率と搬送時間との間に,指数関数曲線に高い相関で回帰する関係があった。搬送時間を短縮できれば,自宅退院率をあげることができることを証明できた。搬送時間短縮による自宅退院率改善を数値化できることになる。AMI軽症及び中等症,その他の疾患では,搬送時間との間に明らかな関係はみられなかった。覚知時間の遅れなどが影響した可能性が考えられた。結論:AMI重症例に於いては,救急車搬送時間が短ければ,入院後30日目の自宅退院率を改善する,という仮説が証明できた。