著者
松下 和彦 松本 浩 鳥居 良昭 仁木 久照
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.327-332, 2018-04-25

黄色ブドウ球菌は骨芽細胞内に侵入できる! これまで,黄色ブドウ球菌は骨基質やインプラントの表面に定着してバイオフィルムを形成するなど,宿主(ヒト)の細胞外のみで増殖できる細胞外寄生菌とされてきた1).しかし,黄色ブドウ球菌はヒトの細胞内でも増殖できる細胞内寄生菌でもあるとのin vitroの報告が散見され,骨芽細胞内にも侵入し増殖することが確認されている1-4).一方,セファゾリン(CEZ)などのβ-ラクタム系薬は,細菌の細胞壁の合成を阻害することで抗菌作用を発揮する.したがって,ヒトの細胞は細胞壁がないため,β-ラクタム系薬はヒトの細胞には作用せず安全性が高いとされてきた.その反面,β-ラクタム系薬は細胞壁のないヒト細胞内への移行が不良で,細胞内寄生菌に対する抗菌活性は劣るとされている5).黄色ブドウ球菌が骨芽細胞内に寄生できるとすると,黄色ブドウ球菌による骨感染症では骨芽細胞内移行性がよい抗菌薬を選択する必要がある.骨芽細胞内への移行性を考慮した抗菌薬の選択について解説する.
著者
藤井 厚司 松下 和彦 笹生 豊 鳥居 良昭 石森 光一 小野瀬 善道 赤澤 努 仁木 久照
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.167-171, 2017 (Released:2017-12-04)
参考文献数
16

脊髄硬膜外膿瘍(SEA)は経過観察中に麻痺症状を呈することが知られている。SEAと脊髄硬膜外血種(SEH)は同じ硬膜外病変であるが,SEAの方が麻痺の改善が悪いとする報告がある。今回我々は,SEAにおける原因菌の種類と神経症状の有無との関連を検討したので報告する。症例は急性期のSEAと診断した症例のうち,原因菌が判明した20例である。治療経過中に明らかな筋力低下や膀胱直腸障害を呈した症例を麻痺群,神経障害を認めなかった症例を麻痺なし群とした。原因菌は,黄色ブドウ球菌が20例中13例(65%)と最も多く,黄色ブドウ球菌の割合は麻痺群では12例中11例(92%)であった。一方,麻痺なし群では8例中2例(25%)であり,黄色ブドウ球菌の割合は麻痺群で有意に高値であった(P=0.004)。椎間板炎,椎体炎の合併がないSEA単独発症例の3例は全例麻痺群で,黄色ブドウ球菌によるものであった。黄色ブドウ球菌によるSEAでは膿瘍による神経組織の直接の圧迫のほかに,細菌による神経組織の阻血性変化や組織障害が加わるため,SEHより麻痺の改善が悪いと考えられる,また,黄色ブドウ球菌によるSEAは他の細菌によるSEAより神経障害を生じやすいものと考えられる。さらに,SEA単独発生例の3例は全例が黄色ブドウ球菌によるもので,急速に発症して麻痺症状を呈し手術治療を要していた。麻痺が出現したら早期に手術療法を選択することが重要であるが,黄色ブドウ球菌の場合は麻痺が出現する確率が高い。このため硬膜外膿瘍の診断時は,筋力低下や歩行障害などの麻痺症状などの臨床症状を注意深く観察することが重要である。