著者
田嶋 ティナ宏子
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.55-59, 2022 (Released:2022-09-28)
参考文献数
8

近年,ジャーナルのオープンアクセス化が進んでいるが,それとともに悪質な「はげたかジャーナル」が増加している。何よりも問題なのは,その悪質なジャーナルに投稿し,アクセプトされた論文を業績としてカウントする研究者が増えていることである。どこの大学でも,特に医学系大学では論文執筆することが求められている。1年に1本と目標はたてても,容易に書けるものではなく,書き上がったものを投稿したらすぐにアクセプトされるわけでもない。そこで「はげたかジャーナル」に頼る研究者が増えているのだろう。「はげたかジャーナル」が悪質で,投稿してはいけないと注意喚起は多数出ているが,その正体はどのようなものなのかを具体的に示したものはない。本稿では,実際に「はげたかジャーナル」に投稿したらどうなるのかを検証した。これを読んで,今後,危険なジャーナルに論文投稿しないようにして欲しい。
著者
菱田 吉明 土田 知也 西迫 尚 家 研也 佐治 淳子 田中 拓 奥瀬 千晃 松田 隆秀 田中 逸
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.153-160, 2019 (Released:2019-12-24)
参考文献数
29

44歳女性。2日間継続する発熱を主訴に近医受診し,尿路感染症の疑いで抗菌薬を投与されたが改善なく,翌日に全身筋肉痛と下痢を伴う40度の発熱とショックバイタルを呈し当院紹介となった。身体所見では結膜充血と顔面・四肢体幹にびまん性紅斑を認め,血液検査ではWBC 17,700 /μL,CRP 34 mg/dlと高度の炎症反応を認めた。身体所見及び,頸部〜骨盤部造影CTでは熱源となり得る有意な所見は指摘できなかった。月経期間中であったことや,以前からの生理用タンポンの使用歴からToxic shock syndrome (TSS) を疑い,多剤抗菌薬併用療法に加え,大量補液,昇圧薬による加療を開始した。血液培養は陰性であったが,腟細菌培養でmethicillin-sensitive Staphylococcus aureus (MSSA) が検出された。他の所見に加えて,第7病日には両手足の皮膚落屑を確認でき,TSSの診断を確定した。黄色ブドウ球菌が産生する毒素により引き起こされるTSSは敗血症性ショックを呈する疾患の中でも多臓器不全をきたし致死的となる可能性が高いが,疾患を想定した病歴聴取がなされなければ診断が困難な場合がある。近年日本でも生理用タンポンの使用率は増加傾向にあることより,月経関連TSSはさらに重要性が増すことが予想される。
著者
田中 雄一郎
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.195-203, 2023 (Released:2023-05-16)
参考文献数
37

ロボトミーはどのようなプロセスを経て世界に広まったのか。ロボトミーには当初から批判的な意見が付き纏っていた。受け入れに当たっては国によって大きな温度差があった。ロボトミー伝播の過程で勃発した第2次世界大戦という人類史上最大の戦乱が,精神疾患治療の歴史にも大きな影を落とした。モニスやフリーマンの古典的ロボトミーの術式は,世界に拡散する過程で様々な「改良」が加えられ変容を遂げる。
著者
小山 照幸
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.33-45, 2022 (Released:2022-09-28)
参考文献数
12

目的:リハビリテーション治療は近年,急速に普及が進んできているが,令和元年末から流行し始めた新型コロナウイルス感染症への対応により,通常の診療に影響が出ている。今回,保険診療の面からリハビリテーション治療のこれまでの経過と現状を調査した。調査方法:厚生労働省が公表している社会医療診療行為別統計の平成27年から令和2年までの「心大血管疾患リハビリテーション料,脳血管疾患等リハビリテーション料,廃用症候群リハビリテーション料,運動器リハビリテーション料,呼吸器リハビリテーション料,がん患者リハビリテーション料と回復期リハビリテーション病棟入院料」の算定回数,点数の年次変化を調べた。また各疾患別リハビリテーション料算定回数の年齢階級別年次変化,令和元年と2年の入院外・入院別年齢階級別年次変化を検討した。結果:リハビリテーション料算定回数は平成30年まで増加していたが,令和元年から減少していた。算定点数は令和2年まで増加していた。令和2年の心大血管疾患リハビリテーション料算定回数は17.7%,運動器リハビリテーション料は8.1%,廃用症候群リハビリテーション料は4.9%それぞれ前年に比べ減少していた。結論:リハビリテーション治療は,平成30年までは普及が進んでいたが,その後令和2年に著しく減少しており,これは新型コロナウイルス感染症の流行が影響していると考えられた。
著者
田中 雄一郎
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.205-213, 2023 (Released:2023-05-16)
参考文献数
17

ロボトミーはモニスのノーベル賞受賞で奇跡の治療として市民権を得る。しかし受賞からわずか3年後に,クロルプロマジンというロボトミーに対する最も強力なライバルが現れる。ロボトミーの負の側面,すなわち手術死亡率の高さや人格の変化などが問題点として顕在化しロボトミーに対する世間の風向きが変わる。ロボトミーに批判的な映画や様々な社会スキャンダルが登場し奇跡の治療が悪魔の手術に転落する。ロボトミーに対する社会の評価の変貌を読み解く。
著者
佐々木 信幸
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.177-182, 2021 (Released:2021-04-12)
参考文献数
19

非侵襲的に脳神経活動性を変化させる反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)は,脳卒中症状のより本質的な改善を目指す新たなリハビリテーション治療的技術として,近年著しい発展を遂げている。慢性期においては,半球間抑制のバランスを正常化させるニューロモジュレーションを行うことで上肢麻痺が改善することが知られているが,急性期においては,それに加えて病巣の進展自体を妨げるニューロプロテクション効果があることも示されている。特に急性期では下肢機能の改善に対する需要が高い。下肢は同側性支配率の高い近位帯が機能において重要な役割を果たすため,両側の下肢運動野を共に賦活するような手法も有効である。またリハビリテーション治療自体への参加が不良な自発性低下を示すような場合には,内側前頭前皮質から背側前帯状回を賦活するrTMSが有効である。急性期脳卒中に対するrTMSは,改善にかかる時間を短縮するというよりも,最終的な改善度自体を高める可能性が示されている。安全かつ有効な補助的治療手段と考えられる。
著者
田中 雄一郎
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.9-14, 2023 (Released:2023-05-31)
参考文献数
27

日本のロボトミーの歴史を語る上で重要な人物を2人選ぶとすれば,中田瑞穂と広瀬貞雄が挙がる。脳外科医の中田は日本のロボトミーの先駆者で,広瀬は日本で最も多くのロボトミーを手掛けた精神科医である。中田は1939年に日本で初めての精神外科手術(ロベクトミー)に着手し,1941年にロボトミーを施行した。彼がどのような時代背景で精神外科を開始したのか,戦前の1900年代前半の精神疾患を取り巻く日本の状況を理解しておく必要がある。私宅監置,優生思想,身体療法などをキーワードに考察する。1920年代以降に新たな身体療法が欧州から導入された。1925年には睾丸有柄移植事件という奇想天外な手術が世間の耳目を集めた。日本ではエガス・モニス(Egas Moniz,ポルトガル)のノーベル賞受賞に対する社会的関心は薄く,朝日新聞は記事にせず読売新聞は受賞から5ヵ月経った1950年3月に初めて取り上げた。本稿では,ロボトミーに関連するエピソードを以下の年代に分けて俯瞰する。①1940年以前(太平洋戦争前),②1941~1945年(戦時中),③1946~1955年(戦後10年間)の3期におけるロボトミーおよびそれを取り巻く精神科医療,法制度,新聞に報じられた社会事象を中心に言及する。
著者
田中 雄一郎
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.97-109, 2022 (Released:2022-12-22)
参考文献数
19

ロボトミー誕生以前の脳科学や精神病の治療について概説する。精神病の治療には精神療法と身体療法がある。身体療法のなかには,電気治療,水治療,持続睡眠療法の他,様々な臓器切除があった。臓器切除の中には女性器切除や,精神病治療を目的とする男性の断種もあった。これまで十分な分析がない領域であったがNgramで光を当てる。1800年代後半,ロボトミーが行われる50年前に,精神病治療のために脳の部分切除を試みたスイスの精神科医がいた。それは世界初の精神外科手術ではあったものの,精神医学の発展に貢献することなく人々から忘れ去られた。1900年代前半には人為的にマラリアを感染させることで,ある種の精神病(進行麻痺)が治療可能となり精神医学発展に大きく寄与する。
著者
森 美佳 秋田 美恵子 梅沢 陽太郎 足利 朋子 山下 敦己 長江 千愛 山崎 哲 高山 成伸 金子 英恵 那和 雪乃 松井 宏晃 瀧 正志
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.207-215, 2017 (Released:2017-12-04)
参考文献数
25

背景:ステロイドと血栓症の関連は未だ不明点が多い。我々は免疫性血小板減少症(ITP)におけるメチルプレドニゾロン(m-PSL)パルス療法前後での凝固因子の変化と,ヒト肝癌細胞株HepG2細胞を用いたm-PSLによる凝固因子遺伝子mRNA発現量の変化を検討し,m-PSLによる凝固亢進状態形成機序を考察した。方法:m-PSL(30 mg/kg/dose)を経静脈的に体内に3日間投与したITP症例(n=3)において,投与前と投与終了翌日にフィブリノゲン,プロトロンビン,凝固第V,VII,VIII,IX,X,XI,XII因子活性の変化を観察した。またm-PSL(100 μM)添加HepG2細胞における凝固因子遺伝子mRNAを定量RT-PCRにて測定した。結果:ITP症例ではm-PSLパルス療法後に第VIII因子活性の上昇(p=0.00064)を認めた。HepG2細胞では第XI因子遺伝子mRNAは有意に低下した(p=0.044)が,その他mRNA発現量の変化を認めた凝固因子遺伝子はなかった。考察:本研究結果はm-PSL投与後のFVIII: C増加が凝固亢進状態形成に関与する可能性を示唆する。しかしITP患者での凝固因子活性変化とHepG2細胞での凝固因子遺伝子mRNA発現量の変化は一致せず,m-PSLによる凝固亢進状態形成機序の解明には更なる検討を要する。
著者
田中 雄一郎
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.15-22, 2023 (Released:2023-05-31)
参考文献数
17

本稿では戦後10~30年の期間のロボトミーとそれを取り巻く日本の社会状況について解説する。日本のロボトミーの歴史で最も激動の時代であった。脳生検問題,国際学会騒動,ロボトミー訴訟といった,苛烈な社会的圧力がロボトミーを襲った。1973年東京の国際学会騒動に巻き込まれた会長の佐野圭司および学会理事として出席していたスコヴィルに触れる。そしてスコヴィルの術式を更に進化させた広瀬貞雄の後半生の業績を記す。最後にロボトミーを封印した1975年の日本精神神経学会による精神外科否定決議に至る顛末を解説する。
著者
田中 雄一郎
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.93-96, 2022 (Released:2022-12-22)
参考文献数
17

筆者は脳腫瘍や脳動脈瘤の開頭手術を専門とする脳外科医であるが,かつて精神病を手術で治そうとした時代があったと知り驚いた。自身が1981年に脳外科医になった時本邦では,その手術すなわちロボトミーはすでに1975年に否定された治療法になっていた1-3)。実は日本は世界でも最も激しくロボトミーが糾弾され,精神科医主導で精神外科を否定する決議がなされた経緯がある。もちろん私も脳の一部を破壊して精神病を治療することに賛成しない。ただし脳手術を生業にしている者として,ロボトミーの歴史を正しく知り後進に伝えることは大切な責務と考える。国内外のロボトミーの歴史を知ろうと筆者はこれまでに様々な出版物やネット情報,そして新聞や映画に至るまで折に触れ検証してきた。本稿を書く動機は,ネット上にロボトミーに関する誤認や歪んだ情報が溢れていること,医学生向けの教科書ではロボトミーの用語が消去されて久しく,教育すべき項目から除外されていることに違和感を覚えたことにある。欧米ではロボトミーの歴史について多くの書籍4, 5)や論文6-15)が出版されてきた。しかし日本におけるロボトミーの医学史ならびに社会史を詳述した書籍は少なく,橳島16)の『精神を切る手術』(2012年)と立岩17)の『造反有理』(2013年)以外ほとんど出版されていない。とくに医学者なかでも外科医による著作は皆無であった。本シリーズ(ロボトミーの歴史1~10)は現代の脳外科医の視点でロボトミーの歴史を俯瞰する特徴がある。現在,ロボトミーは史上最悪の手術,悪魔の手術などと揶揄され常に否定的なイメージで語られ,精神科領域では語ることすらタブーという風潮が続いている。どのような時代的要請があって,ロボトミーが登場したのか,なぜ奇跡の手術としてノーベル賞の栄誉に浴したのか,どのような経緯でそれが悪魔の手術に転落したのか,それぞれの時代の大衆はロボトミーをどの様に捉えたのか,新聞や映画がロボトミーをどのように扱ったか,これまでにない視点で切り込む。
著者
小山 照幸
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.151-161, 2023 (Released:2023-05-16)
参考文献数
31

目的:心臓リハビリテーション(以下,心リハ)は近年,急速に普及が進んでいるが,最近,流行している新型コロナウイルス感染症により,通常の診療に影響が出ている。今回,保険診療の面から心リハ治療のこれまでの経過と現状を調査した。調査方法:厚生労働省が公表している社会医療診療行為別統計の,平成21年から令和3年までの「心大血管疾患リハ料」の算定回数,点数を調べ,年次変化および年齢階級別割合・年次変化,令和元年から令和3年の入院外・入院別年次変化を検討した。結果:算定回数は,平成21年99,865回,令和元年791,226回で,10年間で約8倍になった。しかし令和2年は前年より18%減少したが,令和3年は令和元年の95.7%まで回復していた。算定点数は,平成21年21,210,079点,令和元年186,409,625点で,10年間で約9倍に増加していたが,令和2年は前年より16%減少していた。令和3年は令和元年の97.2%まで回復していた。年齢階級別では,70歳以上が78%,85歳以上が32%を占めており,80歳代前半の増加率が最も多かった。令和2年には主に入院外の45歳から89歳にかけて減少しており,中でも70歳代後半の減少が著しかった。結論:保険診療上,心大血管疾患リハ料算定回数,点数は,令和元年までは増加していたが,令和2年に減少しており,新型コロナウイルス感染症の流行が影響したと考えられた。
著者
小澤 南 右田 王介 清水 直樹
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.163-172, 2023 (Released:2023-05-16)
参考文献数
20

緒言:日本においても2020年に6万人近い新生児が生殖補助医療(ART)の恩恵をうけて出生している。体外受精した胚の状態を評価する方法として,胚生検による着床前遺伝子検査が,すでに臨床応用されている。しかし,その侵襲が胚変性を惹起する可能性が残されている。培養液中に認められるcell free DNA(cfDNA)は生検にかわり着床前診断を行う胚の無侵襲な評価方法となりうる。今回,溶液中のcfDNAを回収し,定量することで解析の実用性を検討した。方法:マウス卵を体外受精させ,胚盤胞期胚を得るために5日間培養した。胚盤胞期胚に発育した胚の培養液のDNAの回収を試みた。マウス脳組織DNAをコントロールに用い,リアルタイムPCRを使用した検量線法による溶液中のDNA定量を行った。結果:個別の培養液のDNAは微量であった。5日目の培養液中に平均900 pg前後のDNAが含まれていると推定した。考察:エタノール沈殿処置を行い,マウスの培養液からcfDNAが回収可能となった。cfDNAは培養細胞の状態を無侵襲に評価でき,胚の評価に応用できる可能性がある。一方,胚培養液中のcfDNAはごく微量であり,その回収に当たっては,その後の解析に合わせた精製方法の選択が必要と考えられた。
著者
藤井 厚司 松下 和彦 笹生 豊 鳥居 良昭 石森 光一 小野瀬 善道 赤澤 努 仁木 久照
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.167-171, 2017 (Released:2017-12-04)
参考文献数
16

脊髄硬膜外膿瘍(SEA)は経過観察中に麻痺症状を呈することが知られている。SEAと脊髄硬膜外血種(SEH)は同じ硬膜外病変であるが,SEAの方が麻痺の改善が悪いとする報告がある。今回我々は,SEAにおける原因菌の種類と神経症状の有無との関連を検討したので報告する。症例は急性期のSEAと診断した症例のうち,原因菌が判明した20例である。治療経過中に明らかな筋力低下や膀胱直腸障害を呈した症例を麻痺群,神経障害を認めなかった症例を麻痺なし群とした。原因菌は,黄色ブドウ球菌が20例中13例(65%)と最も多く,黄色ブドウ球菌の割合は麻痺群では12例中11例(92%)であった。一方,麻痺なし群では8例中2例(25%)であり,黄色ブドウ球菌の割合は麻痺群で有意に高値であった(P=0.004)。椎間板炎,椎体炎の合併がないSEA単独発症例の3例は全例麻痺群で,黄色ブドウ球菌によるものであった。黄色ブドウ球菌によるSEAでは膿瘍による神経組織の直接の圧迫のほかに,細菌による神経組織の阻血性変化や組織障害が加わるため,SEHより麻痺の改善が悪いと考えられる,また,黄色ブドウ球菌によるSEAは他の細菌によるSEAより神経障害を生じやすいものと考えられる。さらに,SEA単独発生例の3例は全例が黄色ブドウ球菌によるもので,急速に発症して麻痺症状を呈し手術治療を要していた。麻痺が出現したら早期に手術療法を選択することが重要であるが,黄色ブドウ球菌の場合は麻痺が出現する確率が高い。このため硬膜外膿瘍の診断時は,筋力低下や歩行障害などの麻痺症状などの臨床症状を注意深く観察することが重要である。
著者
近江 亮介 安田 宏 伊東 文生 清川 博史 松本 伸行 奥瀬 千晃 中川 将利 吉田 栄作 吉村 徹 清木 元治 越川 直彦
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.125-133, 2019

<p>【<b>背景</b>】血清ラミニンγ2単鎖(Ln-γ2m)測定は臨床的に有用な肝細胞癌(HCC)診断の新規腫瘍マーカーとなる可能性がある。Ln-γ2mがHCCの治療効果判定の指標となるかは明らかでない。そこで肝動脈化学塞栓療法(TACE)前後の血清Ln-γ2m値を測定し,治療効果判定への有用性を検討した。<br/>【<b>方法</b>】2013年1月から2018年2月までに加療したHCC症例28例(男性:19例,女性:9例,平均年齢値:70歳)を対象とした。TACE後1週間〜1ヶ月(中央値7日:4〜25日)に施行された造影computed tomography(CT)画像を用いて,modified RECIST criteriaによりその治療効果を評価した。また,TACE術前と術後7日の血清のLn-γ2m値を化学発光免疫測定法(Chemiluminescent immunoassay: CLIA)で測定し,CT画像による治療効果との比較を行った。<br/>【<b>結果</b>】CT画像による治療効果判定は著効(Complete response:CR)5例,有効(Partial response:PR)11例,不変(Stable disease:SD)5例,進行(Progressiveon disease:PD)7例であった。治療有効例であるCR群とPR群では,CR 3/5例(60%),PR 4/11例(36%)でTACE後に血清Ln-γ2m値が有意に低下した。PR 7/11例(64%)でTACE後に血清Ln-γ2m値が上昇し,CT画像においても3ヶ月以内に腫瘍の増悪が認められた。治療無効群であるSD群とPD群では,SD 5/5例(100%)とPD 6/7例(86%)において,TACE後に血清Ln-γ2m値の有意な上昇を認めた。<br/>【<b>結語</b>】血清Ln-γ2mは,HCCにおけるTACE術後のCT画像による治療効果判定を補完する新たな指標分子となりうる可能性をもつ。</p>
著者
宮野 竜太朗 住江 玲奈 菅谷 文人 林 京子 武内 嵩幸 福岡 友梨江 脇坂 長興 井上 肇 梶川 明義
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.137-145, 2018 (Released:2018-11-30)
参考文献数
23
被引用文献数
1

(序論)多血小板血漿(PRP)の育毛への効果を検討するためにPRPがヒト培養毛乳頭細胞に及ぼす影響を分子生物学的に検討した。(方法)培養毛乳頭細胞にPRPを添加し,一定時間培養後に線維芽細胞成長因子(Fibroblast Growth Factor; FGF)-2,血管内皮細胞増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor; VEGF),骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein; BMP)-2,Wnt5a,Ephrin(EFN)A3の遺伝子発現を定量PCRで測定した。また,エクソソーム除去PRPが前記遺伝子群の発現に及ぼす影響を同様に測定した。(結果)PRPは毛乳頭細胞のFGF-2,VEGF,BMP-2の遺伝子発現を2時間で無添加対照に比較して有意に増加させた。FGF-2,Wnt5aは24時間後で有意に増加したが,VEGFは有意差を認めなかった。BMP-2は有意に発現が低下した。EFNA3は変化なかった。エクソソーム除去PRPも,これら遺伝子群の発現に変化を認めなかった。(考察)毛乳頭細胞への発毛関連遺伝子群の発現増強が退行期の毛包の活性化を促しているものと推察された。特に持続的Wnt5aの発現と,BMP-2の短期的強発現とその後の消退は,毛乳頭の分化誘導と萎縮を抑制している可能性を示唆した。(結論)PRPは,萎縮毛包の再生ではなく,遺残する毛包に作用し育毛に関与すると結論された。
著者
清川 博史 清木 元治 伊東 文生 安田 宏 及川 律子 石井 俊哉 山本 博幸 月川 賢 大坪 毅人 峰岸 知子 越川 直彦
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.139-150, 2015

<b>【背景】</b>大腸癌の診断および術後管理において腫瘍マーカーの臨床的意義は大きい。ラミニン<i>γ</i>2単鎖(Ln-<i>γ</i>2)の発現は様々な腫瘍浸潤先進部において著しく亢進することが報告されており,これはLn-<i>γ</i>2が浸潤性の腫瘍マーカーとして有用である可能性を強く示唆している。我々は,Ln-<i>γ</i>2を選択的に認識するモノクローナル抗体を用いてLn-<i>γ</i>2の定量ELISA法を開発した。<br/><b>【方法】</b>定量ELISA法により78症例(健常者51例,良性疾患8例,大腸癌19例)における血清中のLn-<i>γ</i>2の定量を行った。同時に,化学発光免疫測定法 (chemiluminescent immunoassay: CLIA) を用いてCarcinoembryonic antigen (CEA) とCarbohydrate antigen 19-9 (CA19-9) を測定し診断能について比較検討を行った。<br/><b>【結果】</b>Ln-<i>γ</i>2の中央値は,健常者241.9 pg/mL,良性疾患138.8 pg/mLであり,一方大腸癌においては323.0 pg/mLと非癌症例より有意に高値であった(<i>p</i> = 0.0134)。大腸癌症例と非癌症例とを区別するLn-<i>γ</i>2のカットオフ値を315.8 pg/mLとすると大腸癌症例の57.9%に陽性であった。Ln-<i>γ</i>2とCEA併用における大腸癌陽性率は78.9%であり,CEAとCA19-9併用での陽性率57.9%よりも高率であった。大腸癌の各病期における陽性率では,いずれのマーカーにおいても進行期は高率であったが,CEA,CA19-9におけるStage I/IIの陽性率は低率であった。一方,Ln-<i>γ</i>2はStage I/IIにおいて陽性率50.0%とより高率であった。<br/><b>【結語】</b>血清Ln-<i>γ</i>2は大腸癌診断において既存の腫瘍マーカーを補助可能なバイオマーカーとなる可能性がある。
著者
松岡 摩耶 門野 岳史 松浦 佳奈 北澤 智子 川上 民裕 相馬 良直
出版者
学校法人 聖マリアンナ医科大学医学会
雑誌
聖マリアンナ医科大学雑誌 (ISSN:03872289)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.213-220, 2017 (Released:2017-03-28)
参考文献数
8

2005年1月から2015年12月までの11年間に当科で病理組織学的に皮膚悪性腫瘍と診断した680例について統計的検討を行った。男性348例,女性332例で男女差はみられなかった。疾患別では,基底細胞癌214例,Bowen病129例,有棘細胞癌98例,日光角化症91例,悪性黒色腫87例,乳房外Paget病40例であった。過去に報告された他施設における統計と比較検討したところ他の地域がん拠点病院と類似する疾患分布であった。悪性黒色腫は集学的な治療が必要となるため,各施設の症例数に差がみられた。今後,免疫チェックポイント阻害薬の出現により,治療施設の一層の集約化が行われると考える。