著者
鳥海 淳 三河内 岳 宮本 正道
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.146, 2003 (Released:2004-07-26)

サハラ砂漠では近年大量の隕石が発見されているが、その中には火星隕石や月隕石といった珍しい種類の隕石が比較的多く含まれているのが特徴である。本研究では、このような最近新しく見つかった隕石の1つで、外観的特徴から月隕石の可能性があるものを分析・分類した。さらに、その鉱物学的・岩石学的特徴から、この隕石の起源、および他の隕石との関係について考察を行った。 この隕石はミリメートルサイズの岩片とそれよりやや小さい鉱物破片が黒灰色の石基に埋まっている角レキ化した組織を示し、主要構成鉱物は斜長石、輝石、カンラン石である。岩片には、いくつかの種類のものが見られるが、特徴的なものとしては、オフィティックな玄武岩質のものやインターサータルな組織を示すもの(インパクトメルト)が含まれる。輝石の組成は、非常に幅広く、En81Fs16Wo3からEn2Fs78Wo20を経由して、En34Fs34Wo32に及んでいる。特に、オフィティックな玄武岩質の岩片中に見られる輝石は著しい化学的ゾーニングを示している。輝石のFe/Mn(重量%比)は、60から70である。カンラン石の組成は、Fa14からFa61の範囲であるが、大部分のものは、Fa16-40である。斜長石は、An成分に富んでおり、An91からAn98となっている。他に少量であるが、アパタイト、シリカ、鉄ニッケルのメタルなども含まれている。また、その他の鉱物学的特徴としては、輝石中に幅最大数マイクロメートルの離溶ラメラが観察された。 以上の鉱物学的・岩石学的研究の結果(特に輝石のFe/Mn比より)、この隕石は月起源だと考えられ、しかも月の高地の部分の物質と海の部分の物質の両方を含んでいることが分かった。分類としては、月起源角レキ岩である。また、他の月隕石との比較の結果によると、この隕石はYamato793274/981031、EET87521/96008、QUE94281と最もよく似ており、同じ月の部分からきた可能性がある。しかし、これらは、いずれも南極隕石であり、この隕石と地球への落下がペアとは考えられない。また、その他のサハラ砂漠産の月隕石に、この隕石とペアととなるものもこれまで見つかっていない。この隕石はまだ正式名が付いていないために、現在その作業を進めているところである。