著者
鳥越 俊宏 福原 徹
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.374-382, 2015-10-25 (Released:2015-12-24)
参考文献数
13

目的:脳卒中では,その治療法の進歩により救命できる症例が増加しているが重篤な後遺症が残存することも多い.この際,患者の意識障害のため,治療方針の判断は患者親族に委ねられることがほとんどであるが,出血性脳卒中の場合,血腫摘出術により救命が期待できる場合でも,残存する後遺症のため,外科的治療の選択を躊躇される場合もある.また多くの場合緊急の決定を要するため,親族の心理的負担は非常に大きい.親族への看護ケアにあたり,この判断に影響を与える因子を理解することは重要と考え,以下の研究を行った.方法:当院へ入院した出血性脳卒中患者の親族30名に,アンケート調査により,程度の異なる後遺症が残ると説明された場合を想定して,それぞれの場合での外科的治療の希望を回答して頂き,統計学的に分析した.結果:後遺症の程度が悪化すると,外科的治療の希望が減少したが,親族の判断に独立して影響を与える因子は「自分自身の場合の希望」であった.また同様のアンケートを脳神経系病棟勤務の看護師18名へも行い比較したところ,看護師は認知能が保たれる場合は外科的治療を希望する傾向が強かった.結論:重篤な後遺症を残す可能性のある場合の治療選択は,通常は患者の意思によって決定されるが,脳卒中の場合は意識障害のため,既に患者には治療を選択する判断能力がない場合が多い.この際に本人が事前に意思表示をしておくことが重要であるが,ほとんどの場合親族が決定せざるを得なくなっている.この治療選択を緊急に行って頂く場合も多いが,その状況でも,患者の意思を推察しての判断を促すこと,また,期待できる回復の程度について丁寧な説明を心がけることが必要である.看護師として,親族が後悔のないような判断ができるように最善の配慮をすることが望まれる.