著者
鴻上 喜芳
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.615, pp.615_89-615_108, 2011-12-31 (Released:2013-03-22)
参考文献数
17

米国の医療事故訴訟にかかるコストは1970年代以降ほぼ一貫して上昇し,かつこの間に三度保険危機があったために,医師・病院が医療事故賠償責任保険にアクセスし難くなり,防衛的な医療となったり患者の受診機会が阻害されたりする問題となっている。これに対し,州・連邦は不法行為制度改革を中心とする取組みを行ってきたが,近年は法改正を伴わない新たな取組みも出現してきている。これらの効果もあり,2005年からは医療事故訴訟コスト,医療事故賠償責任保険引受成績とも落着きを見せている。一方,保険危機により,保険マーケットには大きな変化が生じている。株式会社形態保険者がシェアを減らし,代わってRRGが躍進してきた。また,引受約款はオカレンスからクレームズメイドに移行してきている。米国の状況を参考にし,日本の保険者においては,医師賠償責任保険の安定的な保険運営,医師賠償責任保険へのロングテール導入,ならびに医師と患者の良好な関係を維持する新たな無過失補償保険の開発の検討が期待される。
著者
鴻上 喜芳
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.616, pp.616_91-616_110, 2012-03-31 (Released:2013-08-02)
参考文献数
12

本稿では,賠償責任保険の分野に比較的新しく登場した損害賠償請求ベース約款のテールカバーと遡及カバーに焦点をあて,他社切替えの場合や損害事故ベース約款からの移行・損害事故ベース約款への移行の場合における保険接続上の問題を検証し,その上で望ましい対応方法を考察する。接続上の問題が生じないようにするためには,個別アンダーライティングにより引受けを行う主に大企業物件においては,後続会社のきめ細かい対応が必要であるし,損害賠償請求ベース約款と損害事故ベース約款が混在しかつ定型的な引受けが多い種目では,事前にロングテールを提供するよう制度改定がなされることが望ましい。その際,各社個別の対応ではなく,約款・規定を標準化しての対応が望まれる。