著者
鵜殿 平一郎
出版者
岡山医学会
雑誌
岡山医学会雑誌 (ISSN:00301558)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.13-18, 2013-04-01 (Released:2013-05-01)
参考文献数
25

がんワクチンによる免疫治療では,如何にCD8T細胞を感作(プライミング)しその数を増やすか(免疫増強)という点に多大の努力が払われて来た.樹状細胞への抗原デリバリーと抗原プロセシング/提示,Toll様受容体などの刺激,即ち自然免疫系の活性化の併用などはそれに該当する.しかし十分に活性化されたT細胞をもってしても癌の拒絶は容易ではない.それには癌組織という特殊な環境が禍している.T細胞は癌塊内に入り込み莫大な数の癌細胞と遭遇する.癌組織内での繰り返す抗原認識の過程でT細胞は疲弊し,次第に本来あるべき機能を喪失していく.この疲弊(exhaustion)と呼ばれる現象は,T細胞に発現する複数の免疫抑制性分子―免疫チェックポイント分子―と腫瘍に発現するそのリガンドの結合によってもたらされる.代表的なチェックポイント分子の機能を抑制し,エフェクターT細胞が疲弊することなくその機能を長く維持できれば,これからのがん免疫治療に飛躍的な進展がみられるかもしれない.
著者
本間 季里 鵜殿 平一郎 由井 克之
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

hsp70にマラリア原虫CS蛋白のCTLエピトープを結合させた融合蛋白をマウスに免疫することにより、CS特異的CTLの誘導と部分的防御免疫得られることを我々はこれまで明らかにしてきたが、本研究の目的は抗原特異的CTLの誘導機序を明らかにすることである。1.バキュロウイルスによるリコンビナント蛋白の作製上記で用いた融合蛋白は大腸菌で発現させた融合蛋白であるため、大腸菌由来のLPSなどの僅かな混入により樹状細胞の抗原提示能が影響される可能性がある。そこで、大腸菌由来物質の混入を回避するため、バキュロウイルスによるリコンビナント蛋白の作製を行なった。2.抗原特異的CTLの誘導機序を明らかにするためのモデルシステムの確立H2-K^b拘束性に卵白アルブミンペブチドOVA_<257-264>を認識するCD8^+T細胞のT細胞レセプターのトランスジェニックマウス(OT-1)のリンパ節より精製したCD8^+T細胞と、モデル抗原としてのOVA_<257-264>を結合させたマウスhsc70(hsc70-OVA)の融合蛋白をパルスした抗原提示細胞(APC)を培養する。APCがhsp70-OVAを取り込みOVA_<257-264>の提示を行なったか否かは、OT-1由来CD8^+T細胞からのIFN-γ産生を指標に行なった。その結果、樹状細胞はhsc70-OVAを取り込み、OVA_<257-264>をOT-1T細胞に提示出来ることが明らかとなった。3.抗原特異的CTLの誘導機序の解析樹状細胞をブレフェルデインA、クロロキンなどの抗原提示経路の阻害剤で前処置することにより、抗原特異的CTLの誘導機序を解析した。その結果、外来性抗原として取り込まれたhsc70-OVAの提示には樹状細胞内のTAP分子は必ずしも必要ないこと、エンドソームでCTLエピトープとMHCクラスI分子が会合する経路が存在することを明らかにした。