著者
鷲崎 俊太郎
出版者
社会経済史学会
雑誌
社会経済史学 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.147-162, 2007-07-25 (Released:2017-06-09)

本稿は,江戸の町屋敷を事例に,収益還元モデルを使用して,実質地価の決定構造とその推移を分析し,その長期金融資産としての安定性を再検討した試論である。従来,徳川都市の上地市場研究は,土地の収益性と資産性を切り離して議論したため,その鑑定評価を明示できなかったが,本稿は両者の関係を重視して沽券地の実質地価を求め,その変動要因をマクロ経済に位置づけた点に,最大の特徴を有する。その結果,享保〜寛政期には実質地代の低下にもかかわらず,低金利政策と貨幣供給の増量,商品取引に対する貨幣需要の減退といった経済環境が土地不動産への資産選択を活発化させ,実質地価の上昇に貢献した。だが,寛政〜天保期になると,貸手の商人・地主が,土地収益性を,表店でなく裏店のそれ程度と過小に評価したことで,実質地価は利子率の低下に反して暴落した。元来,沽券金高とは地代を利子率で資本還元した現在割引価値を意味したが,以上の分析結果は,徳川都市の土地不動産がリスクと鉢合わせの投機的な長期金融資産たりえたことを示唆していよう。