著者
鷲谷 徹 藤本 武 木下 武男 FUJIMOTO Takeshi
出版者
(財)労働科学研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

初年度においては、労働=勤務時間と生活時間の内的連関構造を明らかにすることを目的として、電機産業の既婚男子労働者を対象とした生活時間調査データの解析を行ない、そこから、1.職業関連行動時間(勤務時間、通勤時間等)の延長が他の諸生活行動時間をいかに圧迫しているかを構造的に分析し、能動的「余暇」活動を行なうためには、まとまったある程度長い時間(「最小必要連続時間」)が必要であり、長時間労働による生活時間の圧迫は量的のみならず、生活の質に大きな影響を及ぼすこと、2.家庭生活の「良好度」、労働者の健康状態等の指標を労働=生活時間の状態と関連づけて分析すると、帰宅時刻との強い連関が認められ、帰宅時刻が21時を超えると、家族関係や労働者自身の健康状態に様々な障害が発生する可能性があることを明らかにした。さらに、第2年度には、異なる2種類の生活時間調査データの分析を行い、初年度の分析結果との比較検討を行なった。そこでは、3.地域や勤務先業種、職種等の違いにも拘らず、帰宅時刻をひとつの基準として、家庭生活の良好さを確保するという視点からの、労働時間の上限の一般的目安を見いだし得ることが明らかとなり、また、4.労働時間短縮の実現に関わる労使関係上の問題解明のための実態調査結果の分析を通じて、所定外労働を行なう理由として、労働者自身は「自己の仕事を消化するため」を挙げるものがとくに多く、見かけ上は、「自発的に」時間外労働を行なっていること。この限りで、時間外労働の削減の方向は、いったん、労働時間制度の枠組みを外部化し、それ自体の遵守を労使関係の基盤と化すべく論理の倒置が要求されていることが明らかとなった。