著者
鷲野 彰子
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.55-71, 2015-09

近年、20世紀初期の録音が数多く販売されているが、その中には自動演奏ピアノを再生したものも含まれる。自動演奏ピアノを再生した録音は雑音を多く含むアナログ録音と異なり、録音技術の発達した現代に実際に楽器を鳴らして録音するため、その音質の良さが最大の魅力といえるかもしれない。だが演奏分析をする者にとっては、自動演奏ピアノとそこに遺された記録は、それにも増して、大きな魅力を備えた存在といえる。それは、自動演奏ピアノの記録媒体であるピアノロールに遺された記録が、目で情報を捉えることのできるものであり、しかもそこに記録を遺した数々の演奏には、多くの著名な演奏家や作曲家自身によるものが含まれているためである。つまり、彼らの演奏を私たちは耳だけでなく、目でも捉えることができる点において、他の資料と決定的に異った魅力を備えているといえる。 本論文は、ピアノロールから演奏を分析する試みの第一歩として行った、パデレフスキによるショパン《ワルツOp.34-1》の冒頭主題部分の演奏で、彼がどのようなリズムで「ワルツ」を演奏したのかを、ピアノロールから分析し、まとめたものである。そこからは、楽譜中には書かれていない/記載不可能なワルツのリズムの「演奏法」がおぼろげに見えてくる。