- 著者
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黄 自進
- 出版者
- 国際日本文化研究センター
- 雑誌
- 日本研究 (ISSN:09150900)
- 巻号頁・発行日
- vol.42, pp.93-121, 2010-09
蒋介石は生涯にわたって、自分の成長経験を取り上げ、国民を激励する講演あるいは訓示を行っていた。そこでよく取り上げられたのは、母の教訓と新潟県高田連隊での軍人生活であった。八歳の時に父を失った蒋介石には、いわゆる家庭教育が当然母の教訓しかなかった。高田連隊の軍人生活が母の教訓と肩を並べて論じられたことは、彼の生涯に日本での留学経験がいかなるウエートを占めていたのかを窺わせよう。こうした認識に鑑みて、蒋介石の日本留学経験、さらにその後の五回の来日経験を合わせて考察することにより、青年期から壮年期に至るまでの彼の人格形成における日本の位置づけを次のように明らかにした。すなわち、日本は青春期の彼を啓発した場所であり、また、壮年期の彼に勇気を与え、革命再起の活力を齎した場所である。こうした個人の経験から、彼は中国が日本の近代化経験を手本として学ぶべきであると考えたのであった。これは同時に、彼が同胞に対して、日本に学ぶようにと呼びかける動機ともなった。