著者
木村 容子 杵渕 彰 黒川 貴代 清水 輝記 棚田 里江 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.499-505, 2008 (Released:2008-11-13)
参考文献数
13
被引用文献数
1

介護者が抱える諸症状に抑肝散およびその加味方が有効であった8症例について報告した。症例1はのぼせ,ほてり,集中できないなどの多彩な症状に抑肝散加芍薬,症例2は不眠および背中の痛みに抑肝散加味方,症例3は不眠に抑肝散合芍薬甘草湯,症例4はイライラや動悸に抑肝散,症例5は不安,不眠に抑肝散,症例6は手掌の湿疹に抑肝散加味方,症例7は目の奥の痛みと頭痛に抑肝散加陳皮半夏合芍薬甘草湯,そして,症例8は頸・肩こり,下痢,動悸,不眠,倦怠感などの症状が抑肝散加陳皮半夏(合芍薬甘草湯)を処方して症状が軽快した。愁訴は多岐に渡るが,その背景には,介護による慢性的かつ持続的なストレスが共通し,情緒系,筋,眼などと関係が深い肝の機能が障害されていると考えられた。また,症例5,6,7,8では,介護される者と介護者の双方に抑肝散を同時に服用させたところ,両方に効果がみられた。原典では「子母同服」とある。介護には,精神的・身体的健康状態が互いに影響を及ぼし合うような濃厚な人間関係があり,母子関係に通じるのではないかと思われた。本来の親子関係とは逆転するが,日常生活の面倒を看てもらう観点から介護される側を「子」,面倒を看る側を「母」ととらえ,「子母同服」の考え方が応用できると考えられた。
著者
木村 容子 黒川 貴代 永尾 幸 山﨑 麻由子 杵渕 彰 佐藤 弘 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.228-235, 2015 (Released:2015-11-05)
参考文献数
21
被引用文献数
4

不眠に補中益気湯が有効であった7症例を経験した。内訳は,補中益気湯を就寝前に服用した2例,補中益気湯の服用のみで不眠が改善した3例,補中益気湯を追加した2例であった。全症例において「浅い眠り」の訴えがあり,疲れやすい・食後の過度の眠気・日中の眠気など気虚による所見を認めたが,食欲不振などの「胃腸症状は顕著でない」ことが共通していた。また,7例のうち5例では補中益気湯により朝の目覚めが改善した。不眠に用いられる酸棗仁湯と帰脾湯は,いずれも気と血を補う処方であるが,帰脾湯は脾胃や心を補う生薬を多く含み,より虚証に用いるべきと考えられた。疲れやすい・食後の過度の眠気・日中の眠気など「気虚による症状が顕著」であるにもかかわらず,動悸・胸騒ぎ・驚きやすい・健忘・貧血・出血など「心の異常による血虚の症状に乏しい」場合には,浅い眠りや朝の目覚めの改善に補中益気湯が有効であると考えられた。