- 著者
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黒田 篤史
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.202, pp.225-242, 2017-03-31
柳田國男の記念碑的著作『遠野物語』の一一二話に考古学的な記述があることは、これまであまり注目されてこなかった。本稿はこの『遠野物語』一一二話の成立過程とその背景を明らかにすることで、柳田國男の考古学的関心について考察するものである。『遠野物語』の成立に最も深く関与しているのは、話者である佐々木喜善の語りである。本稿では、一一二話に何が記されているのかを紐解いた後、佐々木の語りの原形を探るため、彼が少年時代に採集した考古遺物のリストである『古考古物號記』を読み解いた。そこには、佐々木が主に地元で採集した遺物の地点やその形状などが記されていて、一一二話の内容と大まかに一致する。また佐々木が後年著した「地震の揺らないと謂う所」にも考古学的記述があり、佐々木が柳田に一一二話の元になる話を語った意図を見出すことができた。このように佐々木の語りの原形を明らかにしていくことで、佐々木の語りの意図は必ずしも『遠野物語』一一二話に反映されていなかったことが見えて来た。このズレを生んだのは、柳田の意図が介在したためである。柳田の意図はどこにあるのか、佐々木に聞き書きを行っていた頃に柳田によって著された「天狗の話」や「山民の生活」に、その答えを見出すことができた。柳田は鎌倉時代頃まで少なくとも東北地方には先住民にあたる「蝦夷」と「日本人」は隣接する地域に併存していたという先住民観を持っていた。そうした考え方が『遠野物語』一一二話に色濃く顕れていることが、これらの文献を比較することで明らかとなった。本稿の検討から、柳田の考古学的関心は、日本人と先住民の関係を探るために寄せられていたことがより明白となった。