著者
黒須 哲也
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

BCL6遺伝子の異常発現をもたらす染色体転座や発現調節領域の点突然変異は、悪性リンパ腫の遺伝子異常の中でも最も高頻度に認められ、悪性リンパ腫の発症や進展に重要な意義を有すると考えられている。悪性リンパ腫におけるBCL6遺伝子発現異常の意義を明らかにするため、リンパ腫細胞株にBCL6を誘導的に過剰発現する系を構築し検討を行った。BCL6の過剰発現は、血清除去や抗癌剤処理等の各種ストレスによる活性酸素種(ROS)産生の抑制と、ミトコンドリア膜電位(ΔΨ_m)低下の抑制とを介してアポトーシスを抑制する事を見いだした。この研究をさらに進める過程において、p38がVP16等の抗癌剤刺激により活性化され,G2/M期の進行に重要な役割を果たすCdc2の機能を抑制することで、G2期での細胞周期停止を誘導しアポトーシスを抑制する役割を悪性リンパ腫細胞において果たしていることを新たに見いだし発表した。p38は種々の腫瘍細胞において抗癌剤処理時に活性化され、細胞周期停止やアポトーシスの誘導制御に関与することが報告されており、予後や化学療法における反応性を予測できる可能性がある。またp38阻害剤およびウイルスベクター等を用いたp38を分子標的とした治療応用の可能性が示唆され今後さらに検討を行いたい。BCL6遺伝子に関しては、胚中心由来B細胞リンパ腫においてアセチル化されることにより不活化されることが認められ、悪性リンパ腫において脱アセチル化酵素阻害剤の使用が抗癌剤の感受性を高め治療効果の向上に応用可能であることが推察されている。