著者
齊藤 みづほ 星野 義延 吉川 正人 星野 順子
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.17-31, 2019 (Released:2019-07-30)
参考文献数
39

1. 沖縄県西表島の渓流辺植物群落(渓流帯に成立し,渓流沿い植物を主な構成種とする群落)の成立立地と冠水頻度の関係について,流積と集水域面積の2軸で冠水頻度を指標した渓流帯テンプレートを用いて明らかにすることを目的とした.2. 西表島の7河川において277の植生調査資料を収集した.また,河川横断面図の作成と冠水痕跡の調査から,平水位と年最高水位における流積を算出して渓流帯テンプレートを作成し,西表島の河川における渓流帯の範囲を推定した.3. 得られた植生調査資料から,ヒメタムラソウ-サイゴクホングウシダ群集,ヒナヨシ-シマミズ群集,マルヤマシュウカイドウ-イリオモテソウ群集の3群集を識別した.植分あたりの出現種に占める渓流沿い植物の割合は,ヒメタムラソウ-サイゴクホングウシダ群集,ヒナヨシ-シマミズ群集,マルヤマシュウカイドウ-イリオモテソウ群集の順で大きかった.4. 識別された3群集の分布を渓流帯テンプレート上にプロットした結果,ヒメタムラソウ-サイゴクホングウシダ群集とヒナヨシ-シマミズ群集は,年1回かそれ以上の頻度で冠水する立地に成立する渓流辺植物群落であると判断された.とくに前者は冠水頻度が高い立地にも成立していた.一方,マルヤマシュウカイドウ-イリオモテソウ群集は,年1回程度の増水では冠水しない立地に成立しており,渓流辺植物群落ではないと考えられた.5. 西表島の河川では,定期的な冠水による攪乱が,渓流辺での通常の陸上植物の生育を妨げ,冠水に適応した種からなる渓流辺植物群落を発達させていると考えられた.そのため,冠水頻度を低下させるような河川の人為的改変が行われた場合,渓流辺植物群落が衰退するおそれが高いことを指摘した.