著者
齊藤 健太郎
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.239-258, 2013-03

イギリスにおける熟練労働者への技能習得の訓練は、19 世紀以来の「自由な労働市場」の枠組みを背 景に、使用者・労働者双方のボランタリズムによって形成されてきた。これは、20 世紀初頭から漸進的 に導入された一般的な職業訓練でも同様であり、政府が職業教育に介入することは20 世紀中半に至るま で稀であった。しかし、第二次大戦後、1960 年代より、福祉国家的諸政策の展開から、職業訓練にも政 府が積極的に介入するようになる。その後、1980 年代、この傾向はサッチャリズムと市場主義的な新自 由主義政策の展開によって減速し、保守党政権の末期には、伝統的な職業訓練である徒弟制度の再編と 拡大という形をとりつつ、使用者主導のボランタリズムが再生する。1997 年に政権についた「新しい労 働党」は、この方向を維持しつつ、徒弟制度の拡大をはかるが、訓練の到達度はむしろ後退した。さら に、2010 年に政権についた連立政府において、その政策全体における職業訓練の優先順位はむしろ低下 し、イギリスにおける職業教育は現在、多くの困難に直面している。