著者
須賀 利雄 齊藤 寛子 遠山 勝也 渡邊 朝生
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.103-118, 2013 (Released:2020-02-12)
参考文献数
32

亜熱帯循環の通気密度躍層下部(σθ=26.3~26.6kg m-3)の等密度面が冬季にアウトクロップする亜寒帯前線帯では,主に移行領域モード水(TRMW ; S<34.0)が形成されることをArgo データの解析から示した.さらに,密度変化を補償し合う水温・塩分前線を横切る鉛直シアー流がソルトフィンガー型二重拡散対流を引き起こし,TRMW は形成後速やかに高温・高塩分化して,その一部が重い中央モード水(D-CMW ; S>34.0)に変質し得ることを示した.また,シノプティックなXCTD 断面の解析から,亜寒帯前線帯から沈み込んだTRMW やD-CMW などの低渦位水の一部は,中規模渦によって平均流を横切って南に運ばれた後に,亜熱帯循環の通気密度躍層内に広がっていることが示唆された.この輸送過程は,亜寒帯前線帯の深い冬季混合層と亜熱帯循環内に広がる等密度面上の低渦位舌が気候値の流線で直接結ばれていない理由を説明し,TRMW の変質過程とともに,亜寒帯前線帯起源の水塊が亜熱帯密度躍層の維持に寄与するメカニズムを担っている可能性がある.