著者
齊藤 隆信
出版者
佛教大学
雑誌
仏教学部論集 (ISSN:2185419X)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.1-19, 2015-03-01

念戒一致ということばがあるが、そもそも念仏行と戒行は一致しない。厭穢欣浄の念仏は現世否定(いかに浄土に生まれるか)の行法、仏教道徳の戒は現世肯定(いかに娑婆で生きてゆくか)の行法である。もし両者が一致すると言うのであれば、伝宗と伝戒(または結縁五重と結縁授戒)を分けて相伝する必要はなくなる。それにも関わらず今なお念戒一致が説かれている背景には、宗戒両脈を関連づけようとする発想がある。これは伝法然作『浄土布薩式』に拠りつつ、近世に席巻した布薩伝法が契機となっていることは明らかである。本稿は、念戒一致の根拠となった近世の布薩伝法における布薩戒(念仏戒)についての報告である。結論を先取りすれば、布薩戒(念仏戒)とは近世における布薩伝法の口伝の実体であり、念戒一致とは近代以後の名称である。つまり、布薩伝法が廃絶された大正以後も、口伝だけはしぶとく残存し、その名を布薩戒から念戒一致に改めて、まことしやかに伝えられてきているのである。