著者
齋藤 文俊
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、明治初期という、漢文訓読体が優勢であった時代に、「日本語」がどのように意識されていたのかを明らかにするため、漢訳聖書の影響をうけて翻訳された複数の「聖書」を資料としてとりあげ、漢文訓読語法や当時の俗語などの「やさしい日本語」がどのようにその中に含まれているのかを調査していく。また、同じように漢訳聖書の影響を受けた、近代の韓国(朝鮮)語訳聖書の場合と比較考察していくことにより、多角的に明治初期における「日本語意識」の形成過程を明らかにしていくことを目指している。2年目である平成30年度においても、明治期における聖書翻訳に関する先行研究の整理を行うとともに、基本資料の収集と整理を行い、データベース作成準備を行った。これらの作業は、3年目の平成31年(令和元年)度においても継続して行っていく。さらに、今年度においては、聖書以外の翻訳小説にも調査範囲を広げ、特に、漢文訓読体で翻訳された『欧洲奇事花柳春話』と、和文体で書かれた『通俗花柳春話』を対照させ、その中で用いられている漢文訓読語法を調査することにより、両者に見られる日本語意識についても考察を行った。その成果の一部は、「明治初期における聖書の翻訳と日本語意識──漢文訓読語法「欲ス」を例に──」(沖森卓也教授退職記念『歴史言語学の射程』2018年11月、三省堂、PP.497-506)として発表した。明治初期には、このように、同一の内容を漢文訓読体で記したものと、「通俗」という角書を付して、易しい文体で記した小説類が複数存在するので、それらを調査することにより、明治初期の日本語意識を解明していくことが可能になる。