著者
藤田 正治 AWAL R. AWAL Ripendra
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

氷河湖の決壊で一旦洪水/土石流が発生すると下流域に多大な被害をもたらす。このような洪水の発生原因の80%は、末端氷河が氷河湖に崩落する際に発生する津波の越波により堤体が侵食破壊することによって生じる。これ以外にも,浸透,パイピング,すべり崩壊といった様々な原因で決壊する。この中でパイピングによる決壊のメカニズムについてはほとんど分かっていない。多くの天然ダムの形成事例を調査した結果,決壊には至らない場合でも浸透流が堤体内に形成され,裏法面から浸透水が湧出しているケースが比較的多く見つかった。これは,比較的水分を含まず流動化しない形で天然ダムが形成される場合においては,堤体は十分締め固まって堆積するのではなく,緩く堆積するために堤体内に水みちが形成され,いわゆるパイプとなってここから水が流出し,場合によってはパイプ内の水の掃流力によってパイプの侵食が生じ,パイプの拡大からパイピングへと進行すると考えられる。ただし,パイプの形成過程から現象を再現するのは困難なため,本研究では予め氷河湖の堤体内にパイプが形成されている場合を想定し,パイプの形成位置,河道勾配,初期湛水位,初期パイプの大きさ等とパイピングによって形成される洪水/土石流ハイドログラフとの関係等について水理模型実験を行い,これらを考究した。その結果,初期水位が高いほど,氷河湖の長さが長いほど,洪水のピーク流量が大きいことが分かった。また,初期パイプの大きさの違いによって,洪水ピークの発生時刻が異なる(小さいほうが遅い)が,ピーク流量はほぼ同様であった。堤体は1)パイプの拡大,2)パイプの拡大とヘッドカット侵食,3)パイプ位置の違いによるヘッドカット侵食により決壊し,種々の条件によってハイドログラフが敏感に変化する。パイプの拡大による管路流れから開水路流れへの遷移も,ハイドログラフに大きく影響する要因であることが判明した。