著者
Shannon L. LADEAU Barbara A. HAN
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.53-58, 2016-04-30 (Released:2018-05-04)
参考文献数
32

ここ数十年間,ヒトや家畜,野生動物において新たに確認される疾病の数は増加している。これらの疾病の多くは,環境条件が変化した結果,生物種間の接触頻度が変わることで“emerge現れる”のである。従来の疾病生物学あるいは疫学研究は,対象となる1つの生物種におけるアウトブレイクパターンを理解しようとするものである。しかしながら,疾病管理対策には,野生動物,ヒト,家畜,そして潜在的な媒介動物集団にまたがる生態学的相互作用について,より包括的な理解が必要であることが,ますます明らかになってきている。本論文では,生態系における病原体動態の根底にある生態学的原則について紹介し,“disease ecology”分野の最前線の研究について取り上げる。病原体や寄生虫は,生態系に固有のものであるというよりはむしろ生態系を乱すものと考えられがちであるが,“disease ecology”の基本原理は,個体群および群集生態学の古典論に由来するものである。