著者
久保田 尚之 Allan Rob Wilkinson Clive Brohan Philip Wood Kevin Mollan Mark
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000324, 2018 (Released:2018-06-27)

1.はじめに日本の過去の気候を明らかにするには、長期の気象観測データが欠かせない。現在、世界中で過去の気象データを復元する「データレスキュー」が取り組まれている。日本での気象観測は1872年に函館ではじまった。それ以前も気象測器を用いた観測はあるが、個人が短期間実施してきたものが多い(Zaiki et al. 2006)。このため、江戸時代の気候は主に古文書の記録に頼った調査がほとんどであった(山川1993)。一方で欧米に目を向けると、17世紀に気圧計が発明され、気象観測が行われていた。江戸時代日本は鎖国をしていたが、欧米各国は大航海時代であり、多くの艦船がアジアに進出していた。19世紀になると気象測器を積んだ艦船が日本近海にも数多く航行するようになった。航海日誌は各国の図書館に保管されており、航海日誌から気象データを復元する試みが行われている(Brohan et al. 2009)。本研究は欧米の艦船が航海日誌に記録した気象観測データに着目し、江戸時代に欧米の艦船が日本周辺で観測した気象データを用いて日本周辺の気候を明らかにすることにある。2. データと解析手法18世紀末から19世紀にかけて東アジアを航行した外国船は10か国以上知られている。例えばイギリスだけでも、この期間9000以上の航海日誌が図書館などに保管されている。まずはイギリス海軍とアメリカ海軍の艦船に絞り、18世紀末から日本近海を航行した航海及び、日本に来航した航海の航海日誌を調査対象とした。3. 結果日本で最も知られた外国船はアメリカのペリー艦隊であろう。東京湾に現れた1853年7月8日の航海日誌を図1に示す。1時間ごとに気象観測を行なわれたことがわかる。ペリー艦隊10隻のアメリカ東海岸からの航海日誌が残されている。アメリカ船はこの他に1837年に来航したMorrison号、1846年のVincennes号の気象データがデジタル化されている。日本に来航した最も古い記録は1796年に室蘭に来航したイギリス海軍のProvidence号がある。サンドウィッチ島(現在のハワイ)から航路を図2に示す。1796年7-11月の気圧データを図3に示す。室蘭に来航した1796年9月は欠測となっている。今後は航海日誌の気象資料をデジタル化し、江戸時代の台風の襲来を中心に調べる予定である。