著者
高尾 千津子 Chizuko Takao
出版者
同志社大学一神教学際研究センター
雑誌
一神教学際研究 = Journal of the interdisciplinary study of monotheistic religions : JISMOR (ISSN:18801080)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.25-39, 2015-03-31

19世紀末、中国東北部(満洲)に建設されたロシアの都市ハルビンには、ロシア革命直後には1万を超える極東最大のユダヤ人が住んでいた。1931年の満州事変と翌年の満洲国建国によって日本は中国大陸への侵略を開始し、中東鉄道沿線のロシア人社会を支配下に置いた。皮肉にもこの結果日本はロシアから「ユダヤ人問題」を引き継ぐことになった。日本にはユダヤ人社会がほとんど存在しなかったため、反ユダヤ主義は欧米やロシアの「輸入品」であり、そのユダヤ人認識も一般には観念的なものと考えられる。だが、満洲国建国後日本は現実の「ユダヤ人問題」、すなわち反革命派ロシア人による反ユダヤ主義の問題に直面していた。本論ではハルビンにおけるロシア・ファシスト党の反ユダヤ主義、それに対抗するユダヤ人社会と指導者カウフマンの存在が、戦前日本におけるユダヤ人認識の形成と発展にいかに影響を及ぼしたのかを考察した。