著者
朱 春日 Chunri Zhu
雑誌
世界の日本語教育. 日本語教育論集 = Japanese language education around the globe ; Japanese language education around the globe (ISSN:09172920)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.89-106, 2009-03-19

日本語の語彙的複合動詞の組み合わせは、他動性調和の原則、主語一致の原則などにより制約されているが、語彙的複合動詞の中には、このような諸制約から外れた不規則な組み合わせの複合動詞が存在する(例:打ち上がる、舞い上げる)。これらの不規則な複合動詞は、自・他対応する複合動詞から派生されたと指摘されてはいるものの、具体的にどのような場合に派生されやすいのかについては考察されていない。本稿では、主に「上げる」「上がる」を後項とする語彙的複合動詞を取り上げ、「他動詞+非対格自動詞」と「非対格自動詞+他動詞」型の不規則な複合動詞が派生されやすい場合と派生されにくい場合について探った。その結果、「他動詞+非対格自動詞」型の不規則な複合動詞が派生されやすいのは、」後項動詞が実質的な意味を持つか持たないかに関わらず、前項動詞が実質的な意味を持たない場合と」前項が抽象的な意味を、後項が実質的な意味を持つ場合で、派生されにくいのは、(1)後項動詞が実質的な意味を持つか持たないかに関わらず、前項動詞が物理的な意味を表す場合と(2)前項が抽象的な意味を、後項が実質的な意味を持たない場合であることが分かった。「非対格自動詞+他動詞」型の複合動詞の派生においては、「他動詞+非対格自動詞」型の複合動詞に比べ、その数が限られており、「自動詞+自動詞」型の複合動詞と自・他対応しているのも少ないことが明らかとなった。