著者
Collins Steven
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.12-18, 2005
参考文献数
14

アメリカにおけるバイオテクノロジー・センターに関する最も際立った特徴の一つは, いくつか少数の地域にクラスターが集中していることである。2003年の時点で, アメリカのバイオテク企業1,466社のうち60%が5つの州に立地し, カリフォルニア州だけで30%を占めている。しばしば商業的なバイオテクノロジーの誕生はバイドール法の制定に結び付けられるが, その起源はアメリカのナショナル・イノベーション・システムにおける三つの発展-1930年代から始まるロックフェラー財団の支援による分子生物学の発展, 冷戦期の科学システム, 50年代から70年代におけるNIHによる生物医学への財政的支援-に遡る。そして, 70年代半ばまでに, 商業的なバイオテクノロジーのための科学的及び政治的基礎が適宜据えられたのである。本論文では, アメリカにおけるバイオテクノロジーの地理的クラスターについて概観するために, 主要な6ヶ所を取り上げる。バイオテクノロジー企業のほぼ半数が本拠を置くサンフランシスコ及びボストンは, 前者では76年のGenentech, 後者では78年のBiogenの設立によって, 創始的なクラスターの誕生した地域で, 1995年から2001年までの期間, バイオテク企業に対するベンチャー・キャピタルの約3分の1を前者が, 20%を後者が引き寄せ, またNIHのトップ100市に対する研究資金の配分において前者が6%, 後者が12%を得ているが, それらインプットの集中は, 最初のバイオテク企業のパイオニアを生み出したことや多くの研究者・企業家・ベンチャー・キャピタルを引きつける地域的比較優位条件をもっていたことと, 冷戦期の科学技術政策と歴史的合成の結果である。それら二つの地域の後に続く, サン・ディエゴ, ワシントンDCメリーランド, ノースカロライナ州のリサーチトライアングル, シアトルの4つの地域を加えてみると, アメリカにおける主導的なバイオテクノロジー・クラスターには, 共通するいくつかの特徴-NIHの研究基金のより大きな受納者にランクづけされる研究大学が存在すること, バイドール法の制定以前に技術移転のメカニズムや手法がよく開発されていたこと, ベンチャー・キャピタルが利用可能であることや起業家精神の風土, そして時宜を得た戦略的政策関与が支援的な役割を演ずること, バイオテクノロジー・センターの必要に対して専門化された人的資本の充分に開発されたプール(科学者だけではなく, 工学者, パテント弁理士, 建築家, 技術者, そしてスタートアップの立ち上げに経験をもつ経営者たちなどを含む)があったこと-が見出されるのである。