著者
土井 宣夫 DOI Nobuo
出版者
岩手大学教育学部
雑誌
岩手大学教育学部研究年報 (ISSN:03677370)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.9-24, 2014-03-01

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震は,モーメントマグニチュード(Mw)9.0の超巨大地震であった。このため,本震直後からマグニチュード7を越える余震が頻発し,3月11日15:15には茨城県沖を震源とする最大余震(気象庁マグニチュード(Mj)7.6)が発生し,4月7日23:32には本論の研究対象であるMj7.2(Mw7.1)の余震が発生した。 本震で大災害が発生していた東北地方は,4月7日の余震で再び大きな災害が発生し,岩手県南部の奥州市と一関市で多数の家屋被害が発生した。この家屋被害で疑問とされるのは,第一に3月11日の本震で大きな被害を受けなかった地域が余震でなぜ大きな被害を受けたのか,第二に岩手県南部の家屋被害がなぜ奥州市前沢区などに集中して発生したのか,という点である。4月7日の余震における地震動の卓越周期は,木造家屋を倒壊させる1 ~ 2秒の周期ではなく,1秒以下の周期であった。この周期の地震動は,屋内の家具や置物を倒すような揺れである。それにもかかわらず,前沢区では多数の家屋被害が集中して発生したのである。 本論は,2011-2012年度の奥州市と岩手大学間の共同研究として,上記の第二の問題の解決を目指して行った調査研究の結果をまとめたものである。本研究の成果は,奥州市の今後のまちづくりに反映されることが期待されている。本調査研究は,具体的には,奥州市前沢区の構造物の被災調査から地震動の特性を明らかにすること,家屋被害が集中して発生した原因を立地する地形と地質条件から明らかにすることを目的としている。次章で,まず,奥州市前沢区の家屋被害の実態を述べる。