著者
Eric A. Smith Alberto Mugnai
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.739-755, 1989 (Released:2007-10-19)
参考文献数
20
被引用文献数
9 17

鉛直方向と角度について細かくとったマイクロ波の平行放射伝達モデルを用いて、EHF/SHFスペクトル領域にわたる数個の周波数での宇宙空間へ放射されるマイクロ波の伝達に対して、時間に依存して変わる雲の微物理構造の影響を調べるために、雲モデルのシミュレーションとともに、一連の数値実験を行なった。本研究の全般的な目的は、宇宙プラットホームから多チャンネル受動型マイクロ波を利用して降水を推定する技術に介在する物理を詳細に調べることにある。本論文は、先に発表した感度試験研究(Mugnaiand Smith,1988;Smith and Mugnai,1988)の続きである。発達するモデル雨雲における受動型マイクロ波の輝度温度に対する大きな氷粒子の効果を、EHF/SHFスペクトル域の10個の周波数で調べた。固い氷結モード及び低密度の氷結モードの両方に対して、それぞれ三つの雲モデルを考慮した。結果は、10.7GHz と 231GHz の問の周波域が、様々の雲モデルや氷結モードに異なって応答することを、はっきり示している。個々の雲層や降水層の輝度温度に果たす寄与を鉛直方向に分離するために我々が導入した、周波数に依存して鉛直に分布する一般化射出/散乱加重関数は、大気上端での輝度温度の強さに強く関与している特定の層を同定するのに、どのように利用できるかを示した。その一般化加重関数は、それ自身における散乱項の相対的強さを示す散乱関数め寄与率とも結びついている。このことは、輝度温度が個々の層における降水粒子によっていかに加減されるか、をよく理解する助けになる。この研究のもう一つの顕著な成果は、中間または高周波数(37GHz以上)に対する、混合相の存在の重要性を明らかにしたこと、及び85GHzでの氷結モードの影響を定量的に示したことである。更に、ある一定の全液体水分量に対しては、雲の鉛直スケールが、実際の観測と合う輝度温度を与える上での、主な支配的要因であることが示された。この結果は、北部アラバマでの1986年の COHMEX 実験における、航空機搭載の2チャンネルマイクロ波放射計による激しい雷雲の観測の実例解析に基づいている。