著者
阿部 康久 GAO Ning
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
no.14, pp.138-153, 2019

本研究では,浙江省温州市に本社がある靴チェーンの意爾康社の加盟店店舗の山東省での地域的拡大メカニズムと加盟店管理について,①フランチャイズ方式による店舗網拡大の経緯,②加盟店に高いノルマを達成させる管理と支援の仕組み,③チェーン本部と加盟店の関係性やその変化,という点に着目して検討した.研究手法として,意爾康社本部や地域代理商の幹部4人と加盟店オーナー18人にインタビューを行い,オーナーになった経緯,商品調達の際の契約条件や取り決め,本部から受けている支援内容やその変化等について調査を行った.同社では以前から取引があった卸売・小売業者等とフランチャイズ契約を結び,同社製品のみを扱う専門店を開設していった.また,全国に展開している温州出身者の地域代理商に判断を委ねながら,加盟店に対して売掛金の支払い猶予,奨励金の支給や開店資金の支援等により経済的な支援を行っていった.加えて店舗運営のためのノウハウの提供も行っていた.中国では,起業家意識が高く企業や店舗等を経営する人々が多いが,同社が採用した手法は,このような人々を組織化する際には有効であり,フランチャイズ方式を導入して15年程度で,全国に4,000店もの店舗網を形成できた点は特徴的である.その一方で,本部と加盟店の関係をみると,以前は本部による加盟店への支援が充実していたが,近年では支援の縮小と管理の強化がみられ,販売額の増加が頭打ちになる中で利益配分の難しさが顕在化している.