著者
KODAMA Fumio HONDA Yuikichi
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.65-74, 1986
被引用文献数
1

研究開発活動のダイナミックスに関する数学的モデルを構築し,産業毎の数学モデルの統計学的検定を行った.その結果,いわゆる,ハイテク産業の研究開発のダイナミックスは他の産業と,統計学的に区別できることが判明した.研究開発活動のダイナミックスを探索段階から開発段階への移行課程として把握する.探索段階の研究投資額は小さく,開発段階の投資額は大きいので,研究開発活動の動きを研究投資額の動きで表現することができる.一方,研究が失敗する確率を考えれば,探索段階の失敗率は高く,開発段階のそれは低い.研究開発が失敗した場合には,研究投資は放棄されるので,研究投資は失敗が明らかにならない限りは増加する.そこで,探索段階の研究で成功の見通しがたったものだけが,研究投資の増加を続け開発段階に移行していくと仮定することにより,一種の生存モデルを基にして,研究開発活動のダイナミックスを,研究開発投資額と投資破棄額との関数関係として数学的に定式化できる.1970年から1982年までの総理府統計局「科学技術研究調査報告書」所載の「産業,製品分野別社内使用研究費」をデータとして用い,主力製品分野以外の各製品分野の研究投資額の頻度分布を計算した結果,指数が多分布であることが明らかになった.そこで,上記のモデルを,非線形最小自乗法を用いて,統計学的にあてはめることにより,産業毎に,研究開発投資額と投資破棄率との関数関係を推定した.この結果,産業毎の研究開発の構造上の相違が明らかになり,「医薬品」,「機会」,「電気機械」,「通信・電子」,「精密機械」の5 つの産業がほかの産業と統計学的に区別することが可能となった.この研究開発の構造を,ハイテク産業の定義として採用することにより,いくつかの政策論を展開した.