著者
伊東 政明 Alastair A. MACDONALD Kristin LEUS I Wayan BALIK I Wayan Gede Bandem ARIMBAWA 長谷川 大和 I Dewa Gede Agung ATMAJA
出版者
Japanese Society of Zoo and Wildlife Medicine
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.91-100, 2020-09-30 (Released:2020-11-30)
参考文献数
28
被引用文献数
2

生育初期のココヤシ(Cocos nucifera)農園を模して造成された飼育施設でスラウェシバビルサ(Babyrousa celebensis)の採食行動を調査したところ,思いがけずココヤシ花の採食やココヤシ未熟果の採取行動が記録された。さらにココヤシの幾つかの部位を用いて給餌実験を行い,次のような所見を得た。1)バビルサはココヤシの芽生えや葉を採食せず,2)雌花よりも雄花を好んで採食する。3)未熟果を歯で割ることができるが,成熟果を割ることができない。4)未熟果を採食する際,上下の切歯で果実を咥えて押さえ込み,下顎切歯を果実の壁に突き刺して割り開く。5)嗜好性の高い部位は,成熟果の胚乳と吸器(haustorium)である。この実験でバビルサが採食したココヤシの部位は,コプラを製造する際にココヤシ農園に散乱する胚乳や吸器の欠片と一致していた。その欠片はココヤシ農園主にとって経済的価値はなく,ココヤシ農園に立ち入るバビルサを害獣とみなす十分な証拠は得られなかった。