著者
狩野 彰宏 IODP Expedition 307乗船研究員
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.111, no.10, pp.571-580, 2005 (Released:2006-02-01)
参考文献数
66
被引用文献数
1 1

近年,世界中の海底から多くの深海サンゴ礁が報告されている.その主要構成生物である冷水サンゴは,熱帯~亜熱帯の造礁サンゴとは異なり,光を必要としない.これらは巨礫や海山などの固い底質を好み,堆積物による蓄積が制限され,水流が強く栄養塩濃度が高い海域で,普遍的に円錐~レンズ型の礁を作る.アイルランド沖ポ-キュパイン海盆での深海サンゴ礁は,水深600~900 mの海底に,直径2 km高さ200 mに達する堆積体として存在する.掘削結果によると,堆積体は主に細粒の粘土・生砕物・石灰質ナノ化石から構成され,長さ数cm以下のサンゴ片を含む.サンゴは生物浸食作用により埋没前には断片化するが,生息時に細粒堆積物をトラップする能力をもち,円錐型の堆積体は安定性を保ちながら成長したと考えられる.深海サンゴ礁から得られた最近の研究成果は,類似した特徴をもつ地質時代のマッドマウンドの堆積過程や環境を理解するヒントになる.