著者
佐藤 恭道 戸出 一郎 雨宮 義弘 Yasumichi SATO Ichiro TODE Yoshihiro AMEMIYA 鶴見大学歯学部 鶴見大学歯学部 鶴見大学歯学部 Tsurumi University School of Dental Medicine Tsurumi University School of Dental Medicine Tsurumi University School of Dental Medicine
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.139-142, 2008-04-10

江戸時代,庶民文芸が発達すると,民間の識字率は高くなり,読書欲も旺盛になってきた.一方医療については,医師の治療を受けることが出来なかった庶民は,様々な民間療法で対処してきた.今回我々は江戸時代中期,佐渡奉行や江戸町奉行などの要職を歴任した根岸鎮衛の著した随筆『耳嚢』にみられる口腔疾患治療について検索した.『耳嚢』には著者が見聞した当時の風俗や奇談などと共に民間療法が記されている.その記述は内科疾患から皮膚病,眼病,精神疾患など多岐にわたっている.口腔疾患の治療については,呪いの類も含めて7種類の治療法が記載されている,これらの記述は著者が,満足に医療を受けられない困窮した庶民を見て,多くの治療法を記したのではないかと考えられた.また,本書は江戸時代における庶民の歯科医療状況を知る上で貴重な一文献であると考えられた.