著者
Iida Maki
出版者
北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院
雑誌
メディア・コミュニケーション研究 (ISSN:18825303)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.65-93, 2018-03-26

近年、ヨーロッパ言語も含む様々な言語の話し言葉において発話末に現れ談話・語用論的な機能を果たす形式群を、「終助詞」(final particles)という新たな言語カテゴリーとして言語横断的視点から統一的に考察する研究が現れてきている。そこでは広東語や日本語における文末助詞(sentence-final particles)のような各言語において明確な語類ないし品詞を構成する形式群も同様に位置づけられている。 本稿は、広東語や日本語のほか、東アジア・東南アジア言語にしばしば見られる文末助詞という語類は、第一義的に文末に出現し、文との統合度の高い拘束的ないくつかの形式群からなる閉じたクラスを構成することから、少なくとも共時的レベルでは、上記のような広義の終助詞とは明確に区別して扱うのが妥当との見方をとる。 そこで本稿ではそうしたアジア言語の文末助詞についての理解を深めるべく、系統や類型を異にする広東語と日本語の文末助詞を比較対照し、その結果、両者の間の言語の別を越えたいくつかの類似点を指摘した。すなわち、統語的特徴としては、文末以外にも一定の伝達内容を持つ文中の句や語の後に生起すること、音韻的特徴としては、母音はいずれも開口度が大きく開音節であること、音調の類型や音調と意味の相関に共通の傾向が観察されることなど、いずれも伝達態度を文法化した語類であるがゆえの偶然とは見なしがたい共通点が挙げられた。 また、両言語では、対話場面における文末助詞ないし準文末助詞の使用頻度や義務性が高いことから、文ごとに伝達態度を標示することが半ば義務的になっており、すなわち文法化されており、文末助詞はその文法的手段として存在していることを主張した。