著者
米谷 郁子 Ikuko KOMETANI
雑誌
清泉女子大学人文科学研究所紀要 = BULLETIN OF SEISEN UNIVERSITY RESEARCH INSTITUTE FOR CULTURAL SCIENCE (ISSN:09109234)
巻号頁・発行日
pp.218-236, 2020-03-31

シェイクスピア作品における「子供」の表象は、従来、「脆弱さ」と「早熟性」のせめぎ合う存在として考察されてきた。本論文は、そうした従来の批評を踏まえつつ、『ジョン王』におけるアーサー、私生児、そして最終幕にのみ登場するヘンリー王子という3人の登場人物の「子供」性を考察することにより、作品が、「未来」とイコールの関係を結ぶ「子供」を否定することで、同時に「歴史」や王位継承の正統性の「政治」までも疑問に付す側面に光を当てる。これにより、シェイクスピアの作品が、「子供」の表象を通じて、未来へ向かって直線的に発展していくモデルとしての「歴史」観や、それによって打ち立てられるナショナリズムへの規範的な態度や感情を批判し得ていることを、論じるものである。