著者
乾 由紀子 Inui Yukiko イヌイ ユキコ
出版者
オオサカ ダイガク ニホンゴ ニホン ブンカ キョウイク センター
雑誌
大阪大学日本語日本文化教育センター授業研究 (ISSN:24239410)
巻号頁・発行日
no.16, pp.41-56, 2018-02

本稿で報告するのは、大阪大学日本語日本文化教育センターにおける日本語科目のひとつ、「歴史・歴史学の文章」の読解実習を行う選択科目の授業内容である。この授業では、明治、大正、昭和期の絵はがきについて書かれた随筆を使い、精読を行っている。ここでは一例として、関東大震災の絵はがきについて書かれた文章を読むときの授業の進め方を紹介したい。運動会や時代祭などの季節の行事や祭りの開始、アジアで初めての万国博覧会となった大阪万博、関東大震災や室戸台風など日本特有の風土がもたらした大災害、近代テクノロジーによる飛行機の誕生、外国との戦争。近代日本を印象づけるこうした出来事は、世界的な絵はがきの流行期と重なる。絵はがきとなったこれらのイメージは、社会に広く流布された。初期絵はがきのモチーフは、今日の私たちの視点から見て意外なものに富んでいる。さらに、使用済みのものに残された私信と合せて眺めるなら、それは歴史的真実ではないかもしれないが、無名の故人の筆を借り、失われた日本の風景や時代の気分を写し出す宝庫となる。読解の練習とともに実際の絵はがきを手にとり、受講者は文字通り日本の近代に触れる。歴史・文化・社会・自然環境等を広くとらえ、学習者の感覚に直接働きかける絵はがきは、日本を理解するための実に魅力的な教材となりえよう。