著者
北川 美香 Kitagawa Mika キタガワ ミカ
出版者
大阪大学日本語日本文化教育センター
雑誌
大阪大学日本語日本文化教育センター授業研究 (ISSN:24239410)
巻号頁・発行日
no.14, pp.35-40, 2016-03

2014年度春学期に大阪大学日本語日本文化教育センターで「漢字研究」の授業を担当した際、幾つかの漢字学習法を実践し、各方法に対する学生の感想を集計した。その結果、日本人の好む語呂合わせや漢字絵描き歌といった即効性の高い方法ではなく、繰り返し漢字を書いて覚えるという地道な作業が留学生に支持されることが判明した。これは日本人高校生のような漢字学習意欲が比較的低い者に比べて、当センターに在籍する外国人留学生は漢字習得に対するモチベーションが高いせいではないだろうか。今までは、漢字を苦手とする外国人の漢字学習に対するやる気を刺激する方法、或いは漢字学習への嫌悪感を消す方法が模索されてきた。しかし、漢字を授業内でも身に付けたいという当センターの学生たちが持っている熱意に応え、漢字を書く作業――例えば書写――を授業内に取り入れてもよいのではないだろうか。
著者
乾 由紀子 Inui Yukiko イヌイ ユキコ
出版者
オオサカ ダイガク ニホンゴ ニホン ブンカ キョウイク センター
雑誌
大阪大学日本語日本文化教育センター授業研究 (ISSN:24239410)
巻号頁・発行日
no.16, pp.41-56, 2018-02

本稿で報告するのは、大阪大学日本語日本文化教育センターにおける日本語科目のひとつ、「歴史・歴史学の文章」の読解実習を行う選択科目の授業内容である。この授業では、明治、大正、昭和期の絵はがきについて書かれた随筆を使い、精読を行っている。ここでは一例として、関東大震災の絵はがきについて書かれた文章を読むときの授業の進め方を紹介したい。運動会や時代祭などの季節の行事や祭りの開始、アジアで初めての万国博覧会となった大阪万博、関東大震災や室戸台風など日本特有の風土がもたらした大災害、近代テクノロジーによる飛行機の誕生、外国との戦争。近代日本を印象づけるこうした出来事は、世界的な絵はがきの流行期と重なる。絵はがきとなったこれらのイメージは、社会に広く流布された。初期絵はがきのモチーフは、今日の私たちの視点から見て意外なものに富んでいる。さらに、使用済みのものに残された私信と合せて眺めるなら、それは歴史的真実ではないかもしれないが、無名の故人の筆を借り、失われた日本の風景や時代の気分を写し出す宝庫となる。読解の練習とともに実際の絵はがきを手にとり、受講者は文字通り日本の近代に触れる。歴史・文化・社会・自然環境等を広くとらえ、学習者の感覚に直接働きかける絵はがきは、日本を理解するための実に魅力的な教材となりえよう。