著者
Joshua Kyle STANFIELD 荘司 長三
出版者
The Japan Petroleum Institute
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.79-87, 2022-05-01 (Released:2022-05-01)
参考文献数
19
被引用文献数
2

シトクロムP450BM3(P450BM3)は,長鎖脂肪酸を水酸化する金属酵素である。P450BM3は長鎖脂肪酸と構造が大きく異なる非天然基質に対しては,通常は不活性状態のままであり,水酸化反応は進行しない。本総説では,長鎖脂肪酸に構造が似ているデコイ分子(疑似基質)を用いてP450BM3を騙し,長鎖脂肪酸以外の基質を水酸化させる独自のアプローチを解説する。デコイ分子を用いる手法は,野生型P450BM3をそのまま用いることができるだけでなく,適切なデコイ分子を開発することによって触媒活性を改善することができる利点を有する。デコイ分子を用いる反応系の最初の発見から,現在までの鍵となる進展をガス状アルカン水酸化に焦点を当てて紹介する。特筆すべきは,これまでに開発した高活性デコイ分子の一つであるN-enanthoyl-L-pipecolyl-L-phenylalanine (C7AMPipPhe)を用いると,高効率なエタン水酸化反応が進行し,触媒回転数(TOF)は毎分82.7回転に達することである。エタン水酸化の触媒回転数は,これまでに報告された全てのP450とそれらの変異体よりも高く,P450の最大活性を実現している。