著者
Franck Dumeignil Mickaël Capron Benjamin Katryniok Robert Wojcieszak Axel Löfberg Jean-Sébastien Girardon Simon Desset Marcia Araque-Marin Louise Jalowiecki-Duhamel Sébastien Paul
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.257-273, 2015-09-01 (Released:2015-11-01)
参考文献数
189
被引用文献数
2 28

Biomass valorization is a booming field. Especially, the valorization of platform molecules by catalytic processes has driven a large interest in the recent years, and many groups are actively working on the transformation of biosourced substrates to a variety of upgraded chemicals. In this context, in the present paper we put in perspectives the scientific works of our research team. We first classified catalytic transformations of industrial interest according to the number of carbons of the starting material, from C1 to C6. They involve, among others, acid catalysts (e.g., for glycerol dehydration), redox catalysts (e.g., for 5-HMF conversion to diformylfuran), acid and redox catalysts (e.g., for direct acetalization of alcohols), or complex multifunctional catalysts, especially for the Guerbet reaction. Further, we also developed what we called ‘toolboxes,’ which are general concepts or technologies with a broader field of applications. For example, we adapted the two zones fluidized bed reactor (TZFBR) concept to the single reactor continuous regeneration of coking catalysts. Further, we designed a completely new high throughput platform enabling synthetizing, characterizing and testing the performances of many catalysts for considerably accelerating the catalysts discovery/optimization loop.
著者
西村 俊 海老谷 幸喜
出版者
The Japan Petroleum Institute
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.72-84, 2017-03-01 (Released:2017-05-01)
参考文献数
140
被引用文献数
6 10

持続的な生産が可能なバイオマス由来資源から化成品・燃料を合成する触媒化学変換法は,持続可能な社会を実現する上で重要な技術の一つである。我々は,石油由来資源の変換プロセスで蓄積した触媒技術とナノテクノロジー研究での知見を生かし,金属担持触媒の調製とバイオマス由来資源から化成品 ・燃料を供給するプロセス技術の開発を行っている。本総合論文では,バイオマス由来の5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF),グリセロールおよびα,ω-ジオールをターゲット物質とした選択的酸化反応に関する我々の触媒開発プロセスと最近の動向を紹介する。HMFとグリセロールの選択酸化反応では,塩基性担体を使用することで外部からの均一系塩基の添加を必要としない酸化反応を実現した。また,脂肪族ジオール類の選択酸化反応では,担持金属活性点のバイメタル化と反応系のpH制御が有効であることを明らかとした。
著者
内木 武虎 小畠 健 渡邊 学 横尾 望 宮元 敬範 中田 浩一
出版者
The Japan Petroleum Institute
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.303-308, 2019-11-01 (Released:2019-11-01)
参考文献数
11

スーパーリーンバーンにおいては,タンブル比を上げるなどエンジン技術による燃焼限界(リーン限界)の拡大が図られているが,さらなるリーン限界拡大のためには新しい燃料技術と組み合わせることが重要であると考えられる。本研究では,タンブル比を変更した2種類のエンジンを用い,燃料化学種がリーン限界(IMEP変動率3 %になる空気過剰率)に及ぼす影響を評価した。その結果,燃料組成変更により,リーン限界をさらに拡大することが可能であることを確認した。また,燃料組成変更によるリーン限界拡大効果は,エンジン変更(タンブル比の違い)によるリーン限界拡大効果とほぼ独立していることを確認した。さらに,燃料の層流燃焼速度とリーン限界は良い相関を示した。
著者
松井 徹
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.171-174, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1

芳香族有機硫黄化合物であるチアンスレン(TA)はジベンゾチオフェン(DBT)脱硫細菌Gordonia sp. TM414株とRhodococcus erythropolis KA2-5-1株により分解されたが,ベンゾチオフェン脱硫細菌Rhodcoccus jostii T09株には分解されなかった。当該培養液の酸性酢酸エチル抽出液を分析したところ,TA-スルホキシド,TA-スルホン,2-phenylsulfanylphenolが検出され,DBT分解に関して報告されている4S経路と類似の分解経路であることが示唆された。チアンスレンの脱硫は,Gordonia属細菌に類縁のRhodococcus 属細菌を用いても可能であることが知られた。
著者
神名 麻智 木村 直人 山下 康貴 柳田 高志 松村 幸彦
出版者
The Japan Petroleum Institute
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.326-330, 2013 (Released:2013-11-01)
参考文献数
15
被引用文献数
6 6

草や木に代表されるリグノセルロース系バイオマスから効率よくエネルギーを生産することは,今後のエネルギー生産において非常に重要な課題である。リグノセルロース系バイオマスからエタノールを生産する過程の一つである水熱前処理はその処理過程で,後の処理段階である発酵を阻害する物質類を生成する。これらの発酵阻害物質は酵母の増殖,発酵に影響を及ぼすことが知られているが,定量的な整理は行われておらず,反応器の設計には困難が生じている。本研究では4種類の発酵阻害物質について酵母増殖に与える影響を実験的に確認,Monod式にフィッティングさせ,発酵阻害物質のMonod式のパラメーターに及ぼす影響を確認した。
著者
高鍋 和広
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-12, 2012 (Released:2012-03-01)
参考文献数
72
被引用文献数
14 45

天然ガスの転化技術は現在のエネルギー需要を満たすのに必要不可欠なものである。本総合論文では二酸化炭素によるメタン改質反応とメタンの酸化カップリング反応の二つの反応に関して,反応機構解析に焦点を当て,高い活性かつ長寿命の触媒開発に関する議論を行う。本論文で議論される基礎的見解は工業用触媒の開発に有効な指針を与えるであろう。メタンの二酸化炭素改質はいくつかの天然ガス田に多く含まれる二酸化炭素を反応物として有効利用できる。触媒開発の最大の問題点である炭素析出に関して議論する。メタンの酸化カップリング反応はメタンからエチレンを一つの発熱反応により製造可能にし,プロセスの資本コストを大幅に下げることが期待される。厳密な反応速度解析によるC2の炭化水素最大収率を議論する。
著者
澤田 太一 山田 徹
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.121-128, 2018-03-01 (Released:2018-03-01)
参考文献数
30
被引用文献数
4

反応時間の短縮 · 副反応の抑制 · 収率の改善などを目的としたマイクロ波の有機合成反応への利用が今日活発になされている。マイクロ波による加熱は反応系内部から迅速に起きるため,一般にこれらの利点は熱的効果によるとされる。一方で,単純な熱的効果のみでは説明が困難な現象も報告されている。最近我々の研究グループは,いくつかの不斉合成反応がマイクロ波照射によってエナンチオ選択性を保持したまま加速されることを報告した。これらの結果は単純な熱的効果では説明することができず,マイクロ波特異効果(非熱的効果)の寄与が実験的に明らかとなった。ここでは我々のマイクロ波特異効果に関する最近の研究成果,すなわちビアリールラクトン類の不斉開環反応,光学的に純粋なビアリールラクトン類のラセミ化反応,不斉Claisen転位反応,不斉Conia-ene反応,閉環メタセシス反応における検証結果を紹介する。
著者
阿部 容子 鳥羽 誠 望月 剛久 葭村 雄二
出版者
The Japan Petroleum Institute
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.307-315, 2009 (Released:2010-01-01)
参考文献数
22
被引用文献数
10 14

魚油が混入した廃食用油利用の観点から,まず魚油脂肪酸メチルエステル(FAME)の酸化劣化による変化を評価し,次いで貴金属触媒を用いて部分水素化した魚油FAMEの酸化安定性について検討を行った。魚油FAMEは酸化によりアルデヒド類,カルボン酸類,ケトン類および大量のスラッジなど多種の分解生成物を生じた。FAMEの酸化反応性はその不飽和度に比例し,魚油FAMEの主成分である4価以上の二重結合を有する多不飽和FAMEはほぼ完全に酸化された。元素分析やFT-IRの結果から,スラッジはケトン類,エステル類およびカルボン酸類による大量の酸素を含有していることが分かった。ゲル浸透クロマトグラフにより測定した数平均分子量から,スラッジは多不飽和FAMEを主としたおよそ10分子のFAMEの重合により形成していると考えた。バイオディーゼル燃料に混入した魚油の酸化安定性を改善するために,Pd-Pt/Yb-USY-Al2O3触媒を使用して魚油FAMEを部分水素化した。ここでは,魚油混合廃食用油のモデル油とするため,魚油FAMEを菜種油FAMEに混合したものを水素化原料とした。2価以上の不飽和FAMEは1価不飽和FAMEおよび飽和FAMEへと選択的に水素化された。水素化FAMEは酸化によりスラッジを生成せず,酸化安定性は未処理油と比較して大幅に向上した。水素化FAME混合軽油の酸化安定性は石油系軽油とほぼ同等であった。多不飽和FAMEの部分的水素化は酸化安定性向上とスラッジ形成の抑制に効果的であることが分かった。
著者
藤田 陽師 福重 透也 松田 泰河 秦 隆志 西内 悠祐 坂本 正興
出版者
The Japan Petroleum Institute
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.10-16, 2021-01-01 (Released:2021-01-01)
参考文献数
28
被引用文献数
2 4

気-液有機反応に対し,気体反応物をファインバブルとして導入できる新しい旋回液流型のファインバブル有機反応装置を開発した。ベンズアルデヒドの分子状酸素による酸化反応をモデル反応として,酸素ファインバブルによる気-液有機反応の反応促進効果を評価した。その結果,O2ファインバブルを用いることで顕著な反応促進効果が得られることが確認された。この反応促進は選択率の向上よりもむしろ転化率の向上が大きく影響していることが判明した。転化率が90 %となる反応時間を同じ流量のエアレーション手法と比較すると,約1/5に反応時間が短縮されていた。通常のサイズの泡と比較して体積あたりの表面積が大きい,浮遊速度が遅い,溶媒中のガスの過飽和を保持できる等のファインバブルの持つユニークな特性が転化率向上に大きく影響したと考えられる。
著者
大山 順也 平山 愛梨 芳田 嘉志 町田 正人 加藤 和男 西村 俊 髙橋 啓介
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.180-184, 2023-09-01 (Released:2023-09-01)
参考文献数
14

CuゼオライトはCH4の部分酸化反応触媒として機能する。これまでに筆者らは様々なCuゼオライトのCH4部分酸化反応に対する触媒活性を評価し,Cu-CHAとCu-MORが比較的高い性能を示すことを明らかにしてきた。さらに,Cu-CHAとCu-MORの酸化還元挙動をin situ Cu K-edge X線吸収微細構造(XAFS)分光法を用いて評価してきた。本研究では,CO2選択性が高かったCu-MFIについて,in situ XAFS分光法を用いて解析し,その酸化還元速度を評価した。Cu-MFIのデータとこれまでのCu-CHAとCu-MORのデータを合わせて,Cu2+/+の酸化還元速度とCH4酸化活性および部分酸化物選択性の関係について調べた。その結果,Cu2+からCu+への還元速度はCH4酸化活性と強い相関があることが確認できた。これは,CH4のC–H活性化の際にCu2+が還元されるためである。一方,Cu2+/+の酸化還元速度と部分酸化物選択性との間には相関は認められなかった。
著者
羽部 浩 新保 外志夫 山本 拓司 佐藤 俊 島田 広道 榊 啓二
出版者
The Japan Petroleum Institute
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.414-422, 2013 (Released:2014-01-01)
参考文献数
12
被引用文献数
19 24

近年,バイオエタノールが化学品製造における重要な原料となっている。バイオエタノール中の不純物が,下流の化学品製造プロセスで使用する触媒の性能に影響を及ぼす可能性があるため,17種のバイオエタノールサンプルについて不純物の分析を行った。リグノセルロース系バイオエタノールは,糖・デンプン系バイオエタノールと比較して,高濃度かつ多種類の有機不純物を含んでいた。特に,リグノセルロース系バイオエタノールは,高濃度の酢酸,アセトアルデヒド,メタノールおよびフルフラールのようなフラン系化合物を含んでいた。また,リグノセルロース系バイオエタノールは,有機硫黄系不純物としてジメチルジスルフィドおよびチアゾールを含んでいたのに対し,糖・デンプン系バイオエタノールからは,ジメチルスルフィドおよびジメチルスルフォキシドが検出された。加えて,リグノセルロース系バイオエタノールからは,0.1 μg/mL以上のSiが検出された。
著者
原田 梢平 茂木 堯彦 里川 重夫 小倉 賢
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.233-243, 2022-11-01 (Released:2022-11-01)
参考文献数
50

カーボンニュートラル実現に向けて,CO2水素化による燃料油合成技術が注目されている。CO2を原料としたフィッシャー・トロプシュ合成にカリウムを添加したコバルト系触媒を用いることで,炭素鎖が成長し液体炭化水素が生成され,同時にメタン生成が抑制されることが報告されている。一方で,カリウム添加による活性変化の詳細は明らかにされていない。本研究では,赤外分光法,X線光電子分光法を用いカリウム添加コバルト触媒の表面状態を分析し,カリウムがもたらす効果を詳細に調査した。カリウム添加によりコバルト表面が還元雰囲気下でも部分的に酸化された状態を維持し,CO2吸着サイトとなる弱塩基点として作用することが明らかになった。カリウム添加コバルト系触媒では,反応ガスのH2/CO2比を1にすると,液相生成物選択率が53 %となった。また,得られた液相生成物には有用化学品原料となり得る1-アルコールや酢酸が含まれていた。
著者
松本 崇弘
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.134-139, 2022-07-01 (Released:2022-07-01)
参考文献数
42

錯体化学は,長い歴史の中で,経験則 · 物理化学 · 量子化学に基づく金属錯体のデザイン合理性「錯体化学的スマートデザイン」を確立してきた。これまでに報告されてきた数多くの金属錯体は,論理的に説明可能な設計原理に基づいて,その機能や性質の発現機構を理解することができる。本論文では,ターゲット反応を誘起するデザイン合理性により達成したいくつかの代表的な研究,特に酸素 · 水素 · メタンの変換反応について解説する。酸素を酸化剤とする芳香族環の水酸化 · スチレンのエポキシ化 · C–H結合の酸化は,二核銅酸素錯体を合理的にデザインすることで誘起させることができる。水素の酸化と酸素の還元は,二核ニッケル · 鉄錯体のバタフライ構造によって促され,水素燃料電池の電極触媒への展開も可能とした。酸素を用いるメタンの変換は,有機ルテニウム錯体に光エネルギーをインプットすることで発現する高い酸化力によって達成している。
著者
Joshua Kyle STANFIELD 荘司 長三
出版者
The Japan Petroleum Institute
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.79-87, 2022-05-01 (Released:2022-05-01)
参考文献数
19
被引用文献数
2

シトクロムP450BM3(P450BM3)は,長鎖脂肪酸を水酸化する金属酵素である。P450BM3は長鎖脂肪酸と構造が大きく異なる非天然基質に対しては,通常は不活性状態のままであり,水酸化反応は進行しない。本総説では,長鎖脂肪酸に構造が似ているデコイ分子(疑似基質)を用いてP450BM3を騙し,長鎖脂肪酸以外の基質を水酸化させる独自のアプローチを解説する。デコイ分子を用いる手法は,野生型P450BM3をそのまま用いることができるだけでなく,適切なデコイ分子を開発することによって触媒活性を改善することができる利点を有する。デコイ分子を用いる反応系の最初の発見から,現在までの鍵となる進展をガス状アルカン水酸化に焦点を当てて紹介する。特筆すべきは,これまでに開発した高活性デコイ分子の一つであるN-enanthoyl-L-pipecolyl-L-phenylalanine (C7AMPipPhe)を用いると,高効率なエタン水酸化反応が進行し,触媒回転数(TOF)は毎分82.7回転に達することである。エタン水酸化の触媒回転数は,これまでに報告された全てのP450とそれらの変異体よりも高く,P450の最大活性を実現している。
著者
木下 睦 高橋 悟 山崎 友紀 金 放鳴 守谷 武彦 榎本 兵治
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.177-185, 2006-07-01
参考文献数
5
被引用文献数
12

オイルサンド層から熱攻法で採収されるビチューメンのオンサイト低粘度化・改質技術として開発研究中のアルカリ超臨界水熱改質法において,ビチューメンからベンゾチオフェン・ジベンゾチオフェン(BT・DBT)類が生成する挙動とそれらの分解挙動について考察した。アルカリ超臨界水熱改質法では,反応温度430℃,圧力30 MPaの条件でKOHを加えて処理した場合,反応時間が数分で終了する比較的迅速な初期の分解反応と,その後のゆっくりとした反応とに区分され,本報では後者を対象とした。得られた結果をまとめると以下のようである。(1)ビチューメンからBT・DBT類が生成し,主にこれらのうちのBT類が分解されることで脱硫が進行すると考えられる。(2)アルカリはビチューメンからBT・DBT類を生成する反応で消費される。(3)使用した2種のビチューメンについて,生成したBT・DBT類の種類は同様であったが,成分ごとの生成量は異なった。(4)生成したアルキルBT類の種類は構造上可能な化合物数の半数近くであり,アルキル基の炭素数が3以下のものがほとんどであった。(5)BT類はDBT類に比べ分解が容易であり,かつDBT類の生成量は多くないため,脱硫は主にBT類を経由すると考えられる。本研究で使用したビチューメンでは生成したDBT類の硫黄含有率は合計で0.3 wt%以下であった。<br>
著者
木下 睦 高橋 悟 金 放鳴 山崎 友紀 守谷 武彦 榎本 兵治
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.272-280, 2005-09-01
参考文献数
14
被引用文献数
1 14

超臨界水を用いたビチューメンのオンサイト改質における脱硫の促進を目的として,ベンゾチオフェン(BT)類とジベンゾチオフェン(DBT)類のアルカリ水熱反応による分解を検討した。BTおよびDBT類はアルカリ水熱処理で分解し,分解の容易さはアルカリ水溶液の種類および濃度により影響を受け,KOH水溶液中での分解が最も進行した。分解はある濃度で残存率が最小となる極値を示した。また,水の超臨界状態では反応圧力が高い方が分解は容易に進行した。BT類とDBT類の両方について,本研究で報告した水熱分解とこれまでに他の研究者によって報告されている水素化脱硫法(HDS)とで生成物が異なり,また見かけの活性化エネルギーも大きく相違しており,両分解法において反応機構が異なることが示唆された。BTはDBTよりも分解が容易に進行し,またメチル基を有する硫黄化合物とメチル基を有さない硫黄化合物の分解の容易さを比較すると,メチル基を有さない硫黄化合物の方が容易に分解する。これらの傾向はHDSの場合と同様であり,水熱分解の場合も化合物の分子構造の影響を受けることがわかった。<br>
著者
木村 俊之 高 建 坂下 幸司 黎 暁紅 浅岡 佐知夫
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.40-50, 2012-01-01
参考文献数
27
被引用文献数
8

ノルマルヘプタンを原料としてヘビーナフサ異性化触媒の開発を行った。ライトナフサ異性化触媒として開発されたPd/ナノサイズAl<sub>2</sub>O<sub>3</sub>/H-BEAゼオライト複合触媒はノルマルへプタンにおいてもナノアルミナ複合効果を発揮したが,高転化率では分解反応が進行した。そこで触媒の残留塩素除去処理を行ったところ,高転化率,高選択性を発揮したことから,残留塩素が塩化アルミニウムのような強い酸点となり,分解活性点として働くと考えられた。また,複合化したナノアルミナは,ゼオライトの強酸点をマイルド化し分解反応を抑制する効果があることが明らかとなった。ナノシリカとの複合化ではその効果が現れなかったことから,ナノアルミナの塩基性によって,ゼオライト表面の強酸点が中和されたと推測された。アルミナ複合触媒は,塩素除去処理を行うことで分散性が約2倍になったことから,ナノアルミナが有する塩素吸着能がパラジウムの分散性に効果的に働いたと推測された。
著者
鈴木 俊光 中川 清晴
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.66-79, 2011-03-01
参考文献数
44
被引用文献数
6

世界で最初に,ダイヤモンド微粒子を触媒担体に用いるいくつかの触媒反応を行った。ダイヤモンドは長年安定な物質と考えられていたが,その表面は水素や酸素と反応し,C&ndash;H結合や,C&ndash;O&ndash;C,C=O結合などが最表面に生成することが知られるようになった。我々は,酸素で表面処理したダイヤモンド(酸化ダイヤ,以下O-Diaと呼ぶ)を触媒担体に用いて,金属酸化物,金属を担持した触媒を調製し,次の反応にO-Dia担持触媒が高い活性を示すことを見出した。本論文では以下の反応に関する著者等の研究をまとめた。(1)酸化クロム/O-Dia触媒によるエタン,プロパンなどのアルカンの脱水素反応,(2)酸化バナジウム/O-Dia触媒によるエチルベンゼンの脱水素反応,(3)メタン,エタンの酸化バナジウム/O-Dia触媒上での二酸化炭素を酸化剤とする酸化反応によるアルデヒド生成反応,(4)Ni/O-Dia,Co/O-Diaを用いたメタンの部分酸化による合成ガス生成反応,(5)NiまたはPd/O-Dia触媒上でのカーボンナノフィラメント生成反応,(6)Ru/O-Dia触媒によるアンモニア合成反応。
著者
大島 一真 中嶋 栞理 多田 昌平 菊地 隆司 里川 重夫
出版者
The Japan Petroleum Institute
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.388-393, 2020-11-01 (Released:2020-11-01)
参考文献数
27
被引用文献数
3

CO2とH2の混合ガスから一段でのジメチルエーテル(DME)合成を目的として,Cu系触媒とゼオライトの混合触媒の触媒性能を評価した。非晶質ジルコニアを担体とした担持銅触媒(Cu/a-ZrO2)とFER型ゼオライトの混合触媒は,CO2水素化に用いられるCu/ZnO/Al2O3とFER型ゼオライトの混合触媒よりも高いDME収率を示した。非晶質ジルコニアを担体とすることで,副反応であるCO生成が抑制されるため,高いDME収率を示したと考えられる。また,FER型ゼオライトはメタノール脱水に有効な酸点を有しており,これらの混合がCO2から一段でのDME合成に有効であることが示された。反応圧力1.0 MPa,反応温度230 ℃の条件でのDME選択率は,その条件での平衡組成である40 %に近い値を示しており,Cu/ZnO/Al2O3との混合触媒よりも約2倍のDME生成量を達成した。
著者
多湖 輝興 中坂 佑太 増田 隆夫
出版者
石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.197-207, 2014
被引用文献数
12

酸化鉄系触媒によるグリセロールからの有用化学物質合成を実施した。反応実験は反応温度623 K,常圧下,固定床流通式反応器にて実施した。グリセロールからの有用化学物質転換反応では,主にアリルアルコール,プロピレン,ケトン類が得られた。これらの有用化学物質は反応経路I(アリルアルコール,プロピレン)と反応経路II(ヒドロキシアセトン,アクロレイン)に従って生成し,経路IIに含まれるヒドロキシアセトンは容易にカルボン酸へと転化し,カルボン酸のケトン化反応によりケトンへと転化された。<i>W/F</i>値(触媒量/供給原料比)を増加させると,アリルアルコールからのプロピレン生成,およびカルボン酸からのケトン生成の各逐次反応が進行し,生成物はプロピレン(収率約24 mol%-Carbon)とケトン類(収率約25 mol%-Carbon)に収束した。また,アルカリ金属を触媒に添加することにより,アリルアルコールの収率が効果的に向上することを見出した。本論文では,試薬グリセリン,および粗製グリセリンからの有用化学物質合成を報告するとともに,触媒組成と反応条件が生成物収率に及ぼす影響を反応機構の観点から議論する。