著者
藤間 達哉 Matthew Logan Justin Du Bois
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 56 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.Oral26, 2014 (Released:2018-07-19)

【研究背景】 Batrachotoxin(1)はコロンビア産矢毒蛙から単離されたステロイドアルカロイドであり、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)に選択的に作用する強力な神経毒である(Figure 1)1)。Navは興奮性神経細胞における活動電位の発生と伝導において中心的な役割を果たし、てんかん、不整脈、無痛覚症等の疾患にも関わりが深いことから、Navを標的分子に含む医薬品が数多く開発されてきた。しかし、巨大な膜タンパク質であるNavと小分子との相互作用はX線結晶構造が解明されていない現状では予測が困難であり、合理的なデザインによる医薬品創出の障害となっている。本天然物はNavに結合することで、不活性化機構の消失、活性化の膜電位依存性の変化、シングルチャネルコンダクタンスの低下、イオン選択性の変化等、独特かつ多様な機能変化をもたらすことから、古くから研究対象とされてきた2)。しかし、乱獲によって産生する矢毒蛙が絶滅危惧種に指定されたことでその供給が困難となり、Navに機能変化をもたらす詳細な作用機序は明らかとなっていない。このような背景に加え、ステロイド骨格にホモモルホリン環が形成された特徴的な縮環構造は他に類を見ず、合成化学における格好の研究対象とされてきた。生合成前駆体であるbatrachotoxinin A(2)のprogesteroneからの半合成がWehrliら(1972年)により3)、全合成が岸ら(1998年)により報告されたが4)、いずれも40工程を越える長大な合成経路であり、天然物やその類縁体供給に活用するには十分なものではなかった。当研究室においても合成研究が行われてきたものの、CDE環を有する中間体の合成経路は既に30段階程度となり、合成を継続するのは合理的ではなかった5)。そこで、合成経路を一新し、batrachotoxin(1)の実用的な合成経路の開発を目指した研究を行った。【合成計画】 Batrachotoxin(1)はbatrachotoxinin A(2, Figure 1)を経て合成することとした(Scheme 1)。その17位−20位炭素間の結合はケトンを足掛かりとした適切なカップリング反応、11位の水酸基はケトンの立体選択的還元、窒素原子はアルデヒドに対する還元的アミノ化反応を用いることでそれぞれ構築できると考え、ケトアルデヒド3を重要中間体として設定した。さらに、C環のケトン部位をアルケンの酸化的開裂により得ることとし、C 環をアルキン部位とアルケン部位を用いて環化異性化反応やラジカル環化反応等により構築できると考えることで、エンイン4をその前駆体とした。エンイン4はアルケニルブロミド5から調製した有機金属種を用い、予め17位炭素の立体 化学が制御されたエノン6に対する立体選択的な1,2-付加反応によって合成可能であると考えた。【ユニットの合成】 Scheme 1に示したエノン6、アルケニルブロミド5に相当するユニットの合成を行った(Scheme 2)。文献既知の方法により2,5-ジメトキシテトラヒドロフラン(7)から調製した光学的に純粋なアルコール8を用いてエノン10の合成を行った6)。まず、アルコール8のアルケン部位をエポキ(View PDFfor the rest of the abstract.)