- 著者
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KAIYA KUBO
- 出版者
- THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
- 雑誌
- 蝶と蛾 (ISSN:00240974)
- 巻号頁・発行日
- vol.14, no.1, pp.14-22, 1963-09-25 (Released:2017-08-10)
筆者は,フタオチョウ(沖縄亜種)Polyura eudamippus weismanni FRITZEの生活史に関する調査に当り幸いにもその大半を知る事が出来たのでここに報告する.1 分布:表記の亜種は琉球列島の内,沖縄本島のみから知られ,同島北部一帯に局地的に分布する.2 成虫の出現期:今回の観察では第1化は4月中句から5月中句,第2化は7月中旬から8月下句に見られ,稀に9月頃第3化のものが見られる.3 食草 ニレ科のリュウキュウエノキ(クワノハエノキ)及びクロウメモドキ科のヤエヤマネコノチチが食草として確認出来た.野外では主として後者を好むようである.4 卵 卵は食葉の表面に1個づつ産付され,稀に裏面にも見られる.形態大型,淡黄色で側面から低面にかけては球型で,上面は扁平であたかもマンジュウ型の卵が倒立したかの如く見える.最大径:約1.8mm 高さ:約1.6mm上面平坦部の径は約1.3mm 平坦部の外周から側面にかけて32〜33本の細い隆起条が有るが,上面では径の約1/3,側面でも,肩に当る部分にだけ認められる.卵殻は無色で極めて薄く,産付当時は淡黄色であるが卵期3〜5日孵化直前になると幼虫の頭部が茶色に透視出来る様になる.5 幼虫 本種にのみ見られる特異の点として,卵から孵化した当時から頭部に2対の突起を有する事が挙げられる.1令幼虫の頭部は黒褐色であるが,2令以後は黄緑色となる.若令幼虫は摂食時以外は近縁のゴマダラチョウ等の様に食葉の先端部に吐糸し,静止する.次に記したものは1962年9〜10月に飼育した際のメモである.秋期の為か意外に終令期間が長くかかつている.卵期3〜5日,1令7日,2令7日,3令4日,4令9日,5令30日幼虫の他の特徴としては背面に突起を生ぜず,体色も1令から終令迄,同じ緑色を呈する事である.胴部は,やや扁平で尾部に至り次第に細まり,尾部には1対の2又状突起を有する.老熟幼虫の大きいものは体長約70mmに達するものもある.頭部の形態については,近縁のコムラサキ,ゴマダラチョウ等の場合は顔を下に向け'突起の部分が直立する格好になるが'本種では常に突起を後に倒し,口器は,前方に向ける点が異る.6 蛹 前蛹期は約5日で,形態的には一見,ウスイロコノマチョウのそれに似る.蛹にも特徴が有り,全体に丸味を持ち,頭部や背面にも全く突起がない.蛹化後,成虫化の起こる迄は透き通る様な鮮緑色で,僅かに前翅後縁部に淡黄線を布き,腹部後方の亜背線及び気門上に淡黄白色の条線を表わす.体長約30mm,大きいものでは約35mmに達する.又,蛹越冬である事も確認出来た.第1図版(カラー)はその中の1例であり,翌年6月に至り羽化したものである.7 天敵 目下のところ天敵としては下記のものが知られる.本種の卵寄生蜂について九州大学農学部昆虫学教室で調ペて頂いた結果,「昆虫」第30巻第4号誌上に安松京三博士の手により新種として記載された.クロタマゴバチ科の一種で学名をTelenomus (Aholcus) kuboiと云う.