著者
小川 浩太
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.43-52, 2022-07-31 (Released:2022-09-09)
参考文献数
28

In the Japanese archipelago, more than 100 species of stray butterflies originating from across the sea have been recorded. Investigation of the origin of these stray butterflies is important in the area of insular biogeography because their migrations can provide opportunities to expand their habitat and affect the biological communities of the islands. An Achillides butterfly was collected in February 2020 as a stray butterfly in the Miyako Islands, where no Achillides butterflies are distributed. Achillides is a subgenus of the genus Papilio, commonly called swallowtail butterflies, and one of the most diverse clades of swallowtails. Since the subgenus consists of many similar species and subspecies, both genetic and morphological analyses were carried out to identify this specimen and to investigate the origin of the stray butterfly. Phylogenetic network analysis based on the ND5 sequence revealed that the butterfly is a member of the bianor-polyctor group. On the basis of fine-scale morphological comparison with the subspecies in the bianor-polyctor group, the stray butterfly was identified as the Chinese peacock Papilio bianor bianor Cramer, (1777), which originates from mainland China with the closest known records being found at a distance of 550 km from where this specimen was collected.
著者
長田 庸平 山中 浩 吉武 啓
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.11-15, 2021-04-04 (Released:2021-04-04)
参考文献数
10

第三著者の吉武が,西表島古見の海岸に打ち上げられたサキシマスオウノキ(アオイ科)の種子から多くの小蛾を羽化させた.これらの蛾は,斑紋や交尾器よりメイガ科マダラメイガ亜科のAssara seminivalisであると同定された.これまで日本からはAssara属が9種記録されていたが,本種は知られていなかったため,今回日本初記録種として報告した.
著者
船越 進太郎
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.157-162, 2001-06-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
11

1995年から1999年にかけて岐阜県谷汲村の神社拝殿で夏眠をするAmphipyra属6種,カラスヨトウA.livida corvina,ツマジロカラスヨトウA.schrenckii,オオウスヅマカラスヨトウA.erebina,シロスジカラスヨトウA.tripartita,オオシマカラスヨトウA.monolitha surniaとナンカイカラスヨトウA.horieiの個体数の変動を調べた.夏眠個体のカウントにおいてオオシマカラスヨトウとナンカイカラスヨトウの種同定は不可能であり,これらは同一種として数えた.この調査地点ではカラスヨトウが常に優占し,50m^2余りの小さな神社拝殿軒下に静止する個体数は多い時で248個体を数えた.その他の種はいずれも個体数が少なく,特にツマジロカラスヨトウは5年の調査期間に5個体しか出現しなかった.夏眠個体数は年によって,また季節によって大きく変動したが,最大個体数を示す年は,種ごとに異なっていた.東海地方におけるそれぞれの種の夏眠期間は,これまで調べられたようにほぼ決まっていた.また,岐阜市周辺の夏眠場所で1987年および1995年から1998年にかけてカラスヨトウを採集し,性を記録すると共に体重を測定した.カラスヨトウ雄成虫は,この属の他種には見られない触角のわずかな鋸歯構造で雌から区別できるが,夏眠後半の個体ではこの特徴が消失する(おそらくすり減るものと思われる).そのため全ての個体を二酸化炭素で短時間の麻酔にかけ,双眼実体顕微鏡により後翅の翅棘で性を確認した.体重は電子自動上皿天秤であらかじめ重量を計ったプラスチック容器に調査個体を移動して測定した.その結果,6月中旬から10月上旬まで,夏眠個体の雄と雌の比は,ほぼ1:1であったが,10月中旬より雄の個体数は減少し,雌の占める割合が増加した.また,体重は9月下旬までは多少雌の方が上回ったがほとんど差はなく,10月上旬になって明らかな差が現われた.その後,体重差は益々広がった.これらの現象は夏眠覚醒の季節とほぼ同時に始まっており,カラスヨトウ成虫に生理的な変化が起こっていることが明らかになった.カラスヨトウは夏眠期間中は,ほとんど光源や糖蜜に誘引されず,交尾行動も見られないことがこれまでの調査で確かめられている.覚醒の後,雄個体は交尾相手を求めて夏眠場所を離れ,活発に活動するためエネルギーを消費し,体重が激減するものと思われる.一方,雌は雄から精包を受け取り,卵が発育するために体重が増加するものと考えられる.しかしながら,夏眠期間中の体重維持や少し早めの体重増加などから,カラスヨトウ類は夏眠期間中も餌をとっていると推定された.
著者
杉浦 真治 山崎 一夫 石井 宏幸
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.12-14, 2002-01-10 (Released:2017-08-10)
参考文献数
10
被引用文献数
3

ゴマフシロキバガScythropiodes leucostola(Meyrick)(チョウ目ヒゲナガキバガ科)の幼虫が,ナラメリンゴタマバチBiorhiza nawai(Ashmead)(ハチ目タマバチ科)によってコナラの芽に形成された虫えいに穿孔し摂食しているのが観察された.これまで,虫えいを摂食するチョウ目では10科が知られているが,我々の知る限りヒゲナガキバガ科では初めての記録である.ゴマフシロキバガは様々な樹種の葉を食べることが知られており,これまで報告された多くのえい食者と同様,機会的えい食者であると考えられた.また,摂食された虫えいから,ナラメリンゴタマバチの成虫が多数羽化してきたことから,ゴマフシロキバガの幼虫による摂食が虫えい形成者に与える影響は少ないものと考えられた.
著者
児玉 洋 広渡 俊哉
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.59-73, 2023-09-30 (Released:2023-10-03)
参考文献数
30

Larvae of the tineid subfamily Harmacloninae are thought to be wood borers without firm evidence. Moths of this subfamily have also well-developed tympanic organs on the second abdominal segment. Among microlepidopterans, this type of organs occur only in Harmacloninae and Pyraloidea. In 2022, we obtained larvae of Micrerethista denticulata Davis, 1998 belonging to Harmacloninae from tunnels in the dead trees of Quercus serrata in Hashimoto, Wakayama Prefecture, Japan. The life history of M. denticlata, including the morphology of the immature stages is described on the basis of field observations and rearing. This represents the first definitive evidence of wood-boring habits in larval stage for the subfamily. The evolution of the larval and pupal morphology associated with wood-boring habits is discussed and the role of the tympanic organs in Harmacloninae is speculated.
著者
鈴木 信也 神保 宇嗣
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.13-17, 2022-03-31 (Released:2022-05-14)
参考文献数
14

Eupoecilia ingens Sun & Li, 2014 is recorded in Honshu, Shikoku and Kyushu, representing the first record from Japan. A diagnosis for this species is provided based on the Japanese specimens.
著者
綿引 大祐 吉松 慎一 竹内 浩二 大林 隆司 永野 裕
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.53-60, 2017-08-31 (Released:2017-12-01)
参考文献数
22

属 Acidon Hampson はインドからオーストラリア地域にかけて21種(そのうち2種は雌しか知られていない正体不明種)が知られ,Kononenko and Pinratana(2013)でいうところの“Mecistoptera generic group”に属する一群である.本グループには Acidon 属のほか,Mecistoptera Hampson,Perciana Walker,Hiaspis Walker,Hepatica Staüdinger,Coarica Moore,Ruttenstorferia Lödl,Lophomilia Warren の7属が含まれており,さらにHolloway(2008)は形態学的な研究から Gonoglasa Hampson も本グループに含めるべきとの見解を示している.また,本グループは全世界でおよそ600種を含む大属であるHypena Schrankと近縁であることから,ヤガ上科の中でも特に分類学的問題を抱えたグループに属している.ヤガ上科の高次分類は今なお混沌としており,本種を含む“Mecistoptera generic group”の種は,日本産蛾類標準図鑑2(岸田,2011)に従うとヤガ科アツバ亜科とカギアツバ亜科にまたがって含まれる扱いとなる.ここでは最近の分子遺伝学的な研究であるZahiri et al. (2012) に従いトモエガ科アツバ亜科として扱った.以下に本新種の特徴を示す.Acidon sugii Watabiki & Yoshimatsu sp. nov. シマイスノキアツバ(新称)前翅長:♂12.3-16.0 mm, ♀12.1-15.4 mm. 雄の触角は両櫛歯状で,下唇髭は非常に長く頭部の5倍程度の長さを有する.雌の触角は糸状で,下唇髭は雄より短い.雌雄ともに前後翅の色調は黒褐色から赤褐色で,前翅の内横線と外横線の間および亜外縁線より外側は暗色になる傾向があり,個体によっては薄紫色の鱗粉を散布する.環状紋は通常白色あるいは黒色の点状であるが,大きな白色紋状となる個体もある.前後翅とも裏面には黒褐色線があり,後翅はその内側に黒褐色紋を伴う.本種は日本における本属の初記録種で,交尾器の形態からボルネオ島より記載された Acidon calcicola Holloway が最も近縁な種であると考えられる.両種は外見上よく似ているが,本種の雄は触角が両櫛歯状,下唇髭が頭部の5倍程度の長さを有するのに対し,A. calcicola を含む Acidon 属の他の種は,雄の触角が繊毛状や毛束状であり,下唇髭は頭部の2-4倍程度の長さであることから容易に識別できる.また,雄交尾器からも明瞭に識別できる.分布:小笠原諸島(兄島・父島・母島). 寄主植物: マンサク科シマイスノキ (Distylium lepidotum Nakai)本種の兄島と母島から得られた1雄2雌の標本を用いた分子遺伝学的な検討も行った結果,得られた分岐図と解析データから,兄島と母島間においておよそ1%の塩基置換率が確認された(Fig. 14).また,チョウ目における同属内の種間のミトコンドリアDNA (COI) 領域の平均塩基置換率はおよそ7~8%であるとされるほか (Hebert et al., 2009; Hausmann et al., 2011),ヤガ科ヨトウガ亜科 Tiracola 属における近縁種の塩基置換率がおよそ5.1%程度であったことが示されているが (Watabiki and Yoshimatsu, 2013),今回分子遺伝学的解析を併せて行った Perciana marmorea Walker,ナンキシマアツバ Hepatica nakatanii Sugi, および本新種の平均塩基置換率はおよそ6.2%であり,属以上のレベルで一般的に見られるような大きな遺伝的差異は見られなかった.本種は日本産ヤガ上科の分類学者であった故杉繁郎氏の助言をもとに竹内・大林(2006)においてクルマアツバ亜科の属名・種名の未決定種として初めてリストアップされた種である.そこで本種の学名は杉繁郎氏に献名し,和名は杉氏が竹内と大林に書面上で提示していたもの(杉私信,1996)と同様に,シマイスノキアツバとした.なお,竹内・大林(2006)では“シマイスアツバ”として扱われたが,これは杉氏提案の和名を誤って略してしまったものである.
著者
吉田 周 平井 規央 上田 昇平 石井 実
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3-4, pp.109-136, 2019-11-30 (Released:2019-12-20)
参考文献数
26

Based on the label information of butterfly specimens collected in Kyoto Prefecture, Japan by Dr. Tadachika Minoura, the distribution of butterfly species in and around Kyoto City in the early Showa period (1930’s to 1950’s) was inferred and compared with the Red Lists of Kyoto Prefecture and the Ministry of the Environment. The specimens contained 63 species and 961 individuals collected at 50 sites in Kyoto Prefecture from 1904 to 1969, including 7 species listed in the Red List of Kyoto Prefecture 2015 or Ministry of the Environment 2018. In particular, it became clear that several species listed on the Red Lists such as Fabriciana nerippe and Eurema laeta were distributed in the Saga or Kinugasa areas, which are now an urban area. Thus Minoura’s collection was proved to an important means for inferring the butterfly fauna in and around Kyoto City in the early Showa period.
著者
裴 良燮 那須 義次
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.185-201, 2000-06-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
31

本論文において,韓国と日本産のPhiaris属のうちolivana種群に含まれる9種を扱った.本種群は雄交尾器の次の3特徴により他の種群と区別できる:(1)uncusは顕著な鉤状で通常2葉,(2)tegumenは高い,(3)valvaは細長く,内面に明瞭な切れ込みを持つ.扱った9種のうち2種toshiookui Bae,hokkaidana Baeは日本から新種として記載し,残りの7種は従来から知られていた種であるが,そのうちの4種castaneana(Walsingham),dolosana(Kennel),examinata(Falkovitsh),transversana(Christoph)については今回新たにOlethreutes属から本属に移した.
著者
新津 修平 前田 大輔
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.7-11, 2022-03-31 (Released:2022-05-14)
参考文献数
18

In the present study, Psyche casta (Pallas, 1767) is newly recorded in Japan. Illustrations of both adults and male genitalia are provided. In addition, the taxonomic issue around this species is discussed based on morphological characters.
著者
平井 規央 谷川 哲朗 石井 実
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.57-63, 2011-06-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
34

アオタテハモドキJunonia orithya orithyaを実験室内の25,20℃の12L-12D(短日)と16L-8D(長日)および30℃の長日条件下で飼育し,発育,季節型,耐寒性を調査した.幼虫と蛹の平均発育期間は温度の上昇とともに短くなり,幼虫期の発育零点t_0と有効積算温度Kは,13.7℃と208.3日度,蛹期は13.4℃と99日度と算出された.25℃では長日・短日ともに3日目に,20℃長日では7日目に成熟卵を持つ個体が見られたが,20℃短日では14日目にも成熟個体は見られなかった.成虫期には日長と温度による季節型が見られた.雌雄後翅裏面の眼状紋と雌の後翅表面の橙色は高温長日で発達し(長日型),低温短日では眼状紋が消失して雌の後翅表面は青色となる(短日型)傾向が強く認められた.幼虫(4齢),蛹,成虫の過冷却点を測定したところ,それぞれ約-12,-17,-20℃となり,成虫で最も低かったが,飼育日長による差は認められなかった.
著者
Giorgio BALDIZZONE 奥 俊夫
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.97-112, 1990-07-20 (Released:2017-08-10)

原記載の後に詳細な検討がなされていなかった下記のツツミノガ科4種を再記載した.Coleophora cercidiphyllella OKUカツラツツミノガ雌のみによって記載され,欧州でカバノキ科などに寄生するC.violacea STROMに近縁と推測されていたが,雄の発見によりこの点を確証できた.雄交尾器のvalvaは後者に比較して短い.幼虫はカツラの新芽を食し,成葉の裏面に移って蛹化する.成虫は6月に出現.幼虫の筒巣は記載済み.北海道のほか,新たに岩手県からも記録された.C.flavovena MATSUMURAキミャクツツミノガ触角基部の毛束が発達せず,白色の前翅に細い黄褐条を有する種群のうち,極東産の唯一の既知種.幼虫はヨモギ,エゾヨモギの葉縁から数片を切取って交互につなぎ合わせ,暗褐色の扁平な筒巣を作る.晩夏から翌春まで葉裏に住み,透明な潜入食痕を残す.成虫は6月後半〜7月に出現.北海道,本州寒冷地(東北地方,長野県)産.朴奎澤博士採集の標本により韓国からも記録された.C.melanograpta MEYRICKカシワピストルミノガ(新称)成虫,触角基部の毛束はよく発達し,白色の前翅に黄褐条を有する.外観は同じくナラ類に寄生する他の2種に酷似するが,交尾器はこれらと明らかに異なる.幼虫はカシワ,クヌギ,コナラ,ミズナラの業面を食し,潜葉習性を示さない.山本光人氏はエノキからも筒巣を得たが,エノキの葉を食するかどうかは不明.筒巣は黒色のピストル状,長短の変異があるが,台尻に相当する尾端部上縁が屈曲点後方で凹むことが特徴.成虫は7月に出現.中国の南京近郊から記載されたが,今回,北海道,本州(関西地方まで)から記録された.C.citrarga MEYRICKヒメツツミノガ(新称)既知種の中では最も小型の部類で,成虫は開張9〜10mm.明るい黄土色の前翅に不鮮明な白条をそなえ,暗色点を欠くため,一見キクツツミノガの淡色個体に似るが,触角に暗色輪紋を全く欠いている.寄生植物は未知.大阪から記載された種で関西地方に普通.米国国立博物館所蔵の故一色周知教授採集の標本により,東京都及び台湾(台北,新記録)からも記録.暖地性の種であるらしく北日本には産しない.
著者
Giorgio BALDIZZONE 奥 俊夫
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.155-169, 1990-10-20 (Released:2017-08-10)

下記のツツミノガ科5新種を記載した.Coleophora quercicola BALDIZZONE et OKUミヤマピストルミノガ(新称)幼虫はミズナラの葉面を食し潜葉習性を示さず,筒巣は黒色のピストル状.台尻に相当する尾端部上縁に凹みを欠く点でカシワピストルミノガと異なるが,ナラピストルミノガとの判別は困難.成虫は7月に出現,触角基部の毛束が発達し,白色の前翅に黄土褐色の条紋を有する点で外観は上記2種に酷似するが,交尾器は明らかに異なる.岩手県の山地及び岐阜県高山で発見.C.iuncivora BALDIZZONE et OKUコウガイゼキショウツツミノガ(新称)幼虫は秋に林間湿地でコウガイゼキショウ類の実を食し,筒巣は細長く,明るい灰黄土色,越冬前には寄主植物の花被が付着している.成虫は8月に出現,触角に暗色輪紋を欠き,黄土褐色の前翅にはかなり幅広い白条を有し,灰褐色の鱗片を多少とも散在する.後翅は淡灰褐色.岩手県の山地で発見.以下の3種は故一色周知教授が採集された米国国立博物館所蔵の標本によるもので,寄主不明の各1雄を検したのみであるため,和名を与えることは差し控える.C.burhinella BALDIZZONE et OKU成虫,触角の暗色輪紋は基部2〜3節では不鮮明.前翅は黄土褐色,白条は基部側前縁寄りと翅頂周辺では退化する傾向が強い.後翅は淡灰褐色.雄交尾器のaedoeagus上縁に数個の三角条突起が並び,cornutiが著しく大きいことが特徴.4月に和歌山県橋本で採集されている.C.laniella BALDIZZONE et OKU成虫,触角の暗色輪紋ぱ鮮明.下唇鬚は長く,中節下方の白い縁取りが目立つ.前翅は比較的細長く灰黄土色,白条を欠き,暗褐灰色の鱗片を散在する.後翅は淡灰褐色.雄交尾器のtranstillaが著しく幅広い板状をなすことが特徴.9月に和歌山県岩湧山で採集されている.C.cinclella BALDIZZONE et OKU成虫,触角の暗色輪紋は鮮明.下唇鬚中節先端下方の毛束はよく突出し,末端節の約半分に達する.前翅はやや幅広く,暗灰褐色の地に黄土褐色の鱗片を密に装うが,外側半分,特に翅頂部と翅縁寄りでは部分的にこの鱗片を欠くため.地色が不規則な斑状に現われる.後翅は灰褐色.7月に鳥取県大山で得られている.
著者
小林 茂樹 広渡 俊哉 黒子 浩
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1-57, 2010-05-31 (Released:2017-08-10)
参考文献数
33

チビガ科Bucculatricidaeは,幼虫が若齢期に葉にもぐる潜葉性の小蛾類である.成虫は開張6-8mmで,世界ではおよそ250種が知られる.中齢期において幼虫は潜孔を脱出し,老熟すると本科に特徴的な縦の隆条をもった舟底形のマユを葉や枝上につくり蛹化する.日本では,アオギリチビガBucculatrix firmianella Kuroko,1982,ナシチビガB.pyrivorella Kuroko,1964,クロツバラチビガB.citima Seksjaeva,1989の3種が知られており,最近筆者らによってハマボウチビガB.hamaboella Kobayashi,Hirowatari&Kuroko,2009,ならびにコナラチビガBucculatrix comporabile Seksjaeva 1989とクリチビガB.demaryella(Duponchel,1840)が追加された(有田他,2009).しかし,本科にはヨモギ属を寄主とするヨモギチビガBucculatrix sp.など,多くの未同定種の報告があり,種の分類・生活史の解明度が低く,種レベルの研究が不十分であった.そこで本研究は,日本産の本科の新種を含む未解明種の形態・生活史を明らかにすることに努め,既知種を含めた本科の分類学的再検討を行った.野外調査とともに大阪府立大学や小木広行氏(札幌市),平野長男氏(松本市),村瀬ますみ氏(和歌山市)などの所蔵標本を用い,日本各地の成虫を調査した.奥(2003)が同定を保留した4種についても,交尾器の形態を確認した.その結果,4新種,11新記録種,2学名未決定種を加えた計23種を確認した.確認された23種を,交尾器の特徴から10種群に分類し,16種の幼虫期の習性をまとめ,3タイプに分類した.幼虫習性は,11種で多くのチビガ科の種でみられる型(1.中齢以降は葉の表面にでて葉を摂食する.2.脱皮マユは2回作る)が見られ,茎潜り,ヨモギにつく3種に見られた脱皮マユを一度しか作らない型は,Baryshnikova(2008)の系統の初期に分化したと考えられるグループに属した.ヤマブキトラチビガとシナノキチビガはシナノキの葉の表と裏側をそれぞれ利用していたが,形態は大きく異なっており,それぞれ,ブナ科とバラ科に潜孔するグループに形態的に近縁と考えられた.また,メス交尾器の受精管が交尾のうの中央に開口することが本科の共有派生形質であることを示唆し,さらに調査した日本産18種でこの形質状態を確認できた. 1.Bucculatrix firmianella Kuroko,1982アオギリチビガ(Plates 1(1),2(1-11),Figs 3A-C,10A)開張6-8mm.前翅は白色に不明瞭な暗褐色条が走り,前翅2/3から翅頂に黒鱗が散在する.雄交尾器のバルバ,ソキウスは丸く,挿入器は細長い.幼虫は6〜10月にアオギリの葉にらせん状の潜孔を作る.住宅の庭木や大学キャンパスなどで発生がみられた.分布:本州,四国,九州.寄主植物:アオギリ(アオギリ科). 2.Bucculatrix hamaboella Kobayashi,Hirowatari&Kuroko,2009ハマボウチビガ(Plates 1(2),2(12-17).Figs 1D,3D-F,10B)開張5.5-8mm.前翅は白色から暗褐色で黒鱗が全体に散在する.雄交尾器のバルバ,ソキウスは長く,バルバの先端に1対の突起がある.幼虫は初夏から11月初旬までみられ,若齢幼虫はハマボウの葉に細長く線状に潜り,その後茎内部に潜る.三重県では,蕾内部に潜孔している幼虫や種子の摂食が観察されている(中野・間野,未発表).分布:本州(三重,和歌山)寄主植物:ハマボウ(アオイ科). 3.Bucculatrix splendida Seksjaeva,1992ハイイロチビガ(新記録種)(Plates 1(3),2(18-20).Figs 1C,3G-I,9E,10C)開張8mm内外.前翅及び冠毛は黒色で,容易に他種と区別できる.本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.4として記録された.幼虫は,夏にみられヨモギの葉の表側表皮を残して薄く剥ぎ,点々と食痕を残す.分布:北海道,本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:ヨモギ(キク科). 4.Bucculatrix laciniatell Benander,1931アズサガワチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(4).Figs 3J-L)開張9mm.前翅は白色で,前縁から後方に明るい茶色の斜列条が走る.雄交尾器の挿入器は先端が鉤爪状に反り,バルバの先端には細かい棘状の突起がある.平野長男氏採集の長野県梓川産の1♂にもとづいて記録した.ヨーロッパでは,Artemisia laciniata(キク科)を寄主とすることが知られる.分布:本州(長野);ヨーロッパ.寄主植物:日本では未確認. 5.Bucculatrix sp.1(nr.bicinica Seksjaeva,1992)(Fig.9D)本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.3として記録された.雄交尾器は,挿入器の先が大きく反り返り,把握器は長細くなる.沿海州産のB.bicinica Seksjaeva,1992に雄交尾器は似るが,同定を保留した.分布:本州(岩手).寄主植物:不明.6.Bucculatrix maritima Stainton,1851ウラギクチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(5),2(21,22).Figs 9A,10D)開張75mm.前翅は濃茶色に白色が混じり,基部に明瞭な白斜条が走る.雄交尾器の把握器は先端が深く切れ込み,雌交尾器の交尾口は,おわん型になる.小木広行氏採集の北海道鹿追産の1♂と山崎一夫氏採集の大阪府大阪市産の1♀にもとづいて記録した.山崎(私信)によると潜孔とマユを大阪市北港処分地で観察している.同様に淀川河口付近のウラギクでも潜孔痕が観察できた.ヨーロッパでは,ウラギクAster tripolium,Artemisia maritima(キク科)を寄主とすることが知られる.分布:北海道,本州(大阪);ヨーロッパ,ロシア.寄主植物:ウラギク(キク科). 7.Bucculatrix notella Seksjaeva,1996ヨモギチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(6),2(23-28).Figs 1C,4A-D,10E)開張6-7mm.前翅は乳白色で,茶から暗褐色の斜条が前縁1/2および2/3に走るが,斑紋の変異が大きい.雄交尾器は,テグメンの先端が発達し,雌交尾器の交尾口はカップ状になる.幼虫は,春から秋にかけてみられ,近畿地方では冬にも若齢幼虫がみられた.後齢幼虫はヨモギの葉に小孔を開け,そこから組織を摂食する.北海道では,ハイイロチビガと混棲しているのが観察された.分布:北海道,本州(長野,三重,奈良,大阪,和歌山,兵庫),九州;ロシア極東.寄主植物:ヨモギ(キク科). 8.Bucculatrix nota Seksjaeva,1989イワテヨモギチビガ(改称,新記録種)(Plate 1(7).Figs 1C,4E-G,9B)開張8mm.前翅は乳白色に褐色の斜条が走る.本種は,奥(2003)によってヨモギチビガBucculatrix sp.1として生態情報とともに記録されたが,ヨモギを寄主とするチビガとしては全国的に前種の方が普通に見られるので本種をイワテヨモギチビガとした.形態,生態ともに前種に似るが,雄交尾器のソキウスが長く発達し,挿入器の先端は大きくフック状に反る.分布:本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:ヨモギ,オオヨモギ(キク科). 9.Bucculatrix sp.2(nr.varia Seksjaeva,1992)(Fig.9C)本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.2として記録された.雄交尾器は,ソキウスの側面が広がり,把握器は先が指状になる.沿海州産のB.varia Seksjaeva,1992に雄交尾器は似るが,同定を保留した.分布:本州(岩手).寄主植物:不明. 10.Bucculatrix sinevi Seksjaeva,1988シネフチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(8).Figs 4H-I,10F)開張7.0-8.0mm.前翅は乳白色で,茶鱗が散在する.雌雄交尾器は,特徴的で雄交尾器のソキウスは小さく,バルバは幅広く先端が尖る.雌交尾器の交尾口の両側には牛角状の突起が伸びる.分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:不明. 11.Bucculatrix altera Seksjaeva,1989アムールチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(9).Figs 5A-E,11A)開張7.0-8.2mm.前翅は白色で茶〜暗褐鱗が散在する.雄交尾器は,挿入器内に多数の鉤爪状突起がある.雌交尾器は,前種と同様に角状突起を有しアントゥルムは幅広の筒状になる.分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:不明. 12.Bucculatrix pyrivorella Kuroko,1964ナシチビガ(Plate 1(10),2(29-32),3(1-7).Figs 1A,2,5E-G,11B)開張7.0-8.0mm.前翅は白色で,不明瞭な明るい茶の斜(View PDF for the rest of the abstract.)
著者
山崎 一夫 高倉 耕一 今井 長兵衛
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.173-175, 2010-07-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
14

オオタバコガの幼虫が大阪市の家屋内でパンを摂食しているところを見出された.この幼虫は偶然に人家,食料品店,あるいはパン製造所のいずれかに侵入し,パンを見つけて摂食にいたったものと考えられる.この幼虫はそのままパンを食餌にして飼育したが,蛹化せずに死亡した.本報告は大蛾類が加工穀物食品を加害した稀な報告例であり,本種のパン食の記録としては2例目である.本種は葉以外に花や果実などを好んで摂食する習性があり,鱗翅目幼虫を捕食することも知られている.本種において稀にパン食が見出されるのは,多食性とタンパク質を多く含む食物を選好する習性が原因なのかもしれない.
著者
Akio SEINO
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3-4, pp.121-125, 1981-02-20 (Released:2017-08-10)

The genus Bacotia was erected by TUTT (1899) for a single European species, Fumea sepium SPEYER. DIERL (1966) described a second species of this genus, B. nepalica DIERL, from Nepal. No further species have been known in the world. In this paper I will describe a third species from Japan, with brief notes on biology.
著者
黄 国華 小林 茂樹 広渡 俊哉
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.261-266, 2008-09-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
10

クロスジキヒロズコガ Tineovertex melanochrysa (Meyrick, 1911)は,小型のヒロズコガ科の一種で,本州,四国,九州,国外では,台湾,インドに分布することが知られている.本種の成虫は昼間に活動し,発生時期には比較的多くの個体が見られる.本種の雌交尾器は特異で,第8背板にメディアンキール(median keel)をもつ,産卵器の先端が鋸歯状となるなど,マガリガ上科にみられるような「突き刺すタイプ」となっている.この特異な形態から,本種が生きた植物の組織内に卵を産み込むのではないかと推定されていたが,実際にどのような産卵習性をもつかは不明であった.また,幼生期の生態などについても不明な点が多かった.著者らは.2007年7月上-中旬に大阪府能勢町三草山,および採集した成虫の行動を実験室で観察した.野外での観察の結果,雌はシダ植物のシシガシラ Blechnum nipponicum (Kunze) Makinoの葉の裏面に産卵するのを観察することができた.また,室内での観察により,卵は成葉の複葉裏面の組織内に1個ずつ複数個が産み込まれること,孵化後に組織から脱出した幼虫は植物体を食べずに地面に落下し,ポータブルケースを作って,枯れ葉などを食べることが明らかになった.本種の生活史は原始的なヒゲナガガ科とよく似ており,生きた植物に産卵する習性をもつことはヒロズコガ科では例外的である.世界的に見るとフィリピンに分布するIschnuridia Sauber, 1902とインド-オーストラリアに分布するEctropoceros Diakonoff, 1955などの属の種が類似した雌交尾器の形態をしていることが知られているが,生態に関する情報は少なく,これらが単系統群であるかどうかについても今後の検討が必要である.本種はMeyrick (1911)によってインド産の標本をもとに記載され,その後,台湾と日本から記録された.大阪府大の所蔵標本を中心に調査した結果,日本国内では以下の府県での分布が確認された.成虫が採集されたデータによると,本州・四国・九升|では年1回,琉球列島(八重山諸島)では少なくとも年2回発生し,近畿では,3-4齢幼虫で越冬すると考えられる.分布:本州(大阪府),四国(高知県,愛媛県),九州(福岡県,鹿児島県),琉球列島(石垣島,西表島,与那国島);台湾;インド.
著者
寺田 剛
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3-4, pp.43-47, 2021-12-31 (Released:2021-12-15)
参考文献数
4

A new species of the Stathmopoda pedella species group from Japan, S. chalcogramma n. sp. is described. This species was reported in Terada (2016) as two separate unidentified species. It was subsequently found that the specimens in question were conspecific following the examination of additional specimens detailed in this work. The external characteristics of the new species are similar to those of some other members of the species group (S. pedella, S. neohexatyla, S. atridorsalis, S. sericicola, S. centihasta and S. stimulata). The adult external characteristics, wing venation, and male and female genitalia of the new species are illustrated and compared with similar species.
著者
松井 悠樹 中 秀司
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3-4, pp.49-58, 2021-12-31 (Released:2021-12-15)
参考文献数
18

We found Pleuroptya harutai (Inoue) comprises two different species. The only host plant records so far known for Pl. harutai are in the Sapindaceae, but we found larvae similar to those of Pl. harutai rolling and feeding on the leaves of Styrax obassis (Styracaceae). We also collected larvae from Aesculus turbinata (Sapindaceae), and compared the morphology of adults and mitochondrial DNA sequences with those from S. obassis. Results show that the insects from the two different foodplants constitute separate species. Since the holotype has not been examined, we cannot yet establish which of the two strains is true Pl. harutai. Morphological and molecular differences between the two taxa corresponding to the difference of host plants are provided.
著者
Ekgachai JERATTHITIKUL Naratip CHANTARASAWAT 矢後 勝也 疋田 努
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.132-139, 2013-12-25 (Released:2017-08-10)

シジミチョウ科の幼虫は,アリと単なる共存から片利共生,相利共生,また共生の中でも特定のアリとしか結び付かない絶対的共生から多くの種のアリと関係する任意的共生,さらには寄生(アリ幼虫の捕食)に至るまでの広範な関係を持つことが知られる.一部ではアリと共生する半翅目を捕食したり,その分泌物を食して成育するものもいる.これらのアリに襲われずに共生等の関係を続けられる性質は好蟻性(myrmecophily)と呼ばれる.そしてアリとの相互関係を維持できる基盤には,アリの制御を可能とする化学的,音響的あるいは視覚的信号をつかさどる好蟻性器官(myrmecophilous ograns)の存在が重要となる.シジミチョウ科ヒメシジミ族に属するクロツバメシジミは,国内では東北地方を除く本州から四国,九州にかけて局地的に分布するシジミチョウ科の一種である.本種の幼虫もアリとの関連性がすでに知られているが,その好蟻性や好蟻性器官に関する詳しい情報はこれまであまり知られていない.2009年から2011年にかけて,筆者らは九州地方の9カ所において本種の調査を行い,幼生期を含む本種を観察,採集した他,幼虫の好蟻性や随伴するアリ類などに関するいくつかの知見も得た.採集した幼虫の体表に見られる好蟻性器官に関してSEMを用いて調べたところ,一般的な共生関係が知られるシジミチョウ科幼虫が持つ基本的な3つの好蟻性器官,すなわち蜜腺(DNO=dorsal nectary organ),伸縮突起(TOs=tentacle organs),PCOs(Pore cupola organs)が認められた.蜜腺は腹部第7節の背中域に見られる横長に開口した大きな器官で,ここからアリが好むアミノ酸や糖類を含む分泌物を多量に放出することが知られる.伸縮突起は腹部第8節の背側域に備える一対の伸縮可能な筒状器官で,本種では先端部周辺に20前後の羽毛状の突起を備えていた.この器官からアリの行動を制御する揮発性物質が放出されるとも言われるが,単に物理的(あるいは視覚的)に刺激をアリに与える器官かもしれず,詳しい機能は不明である.PCOsはドーム形または多少凹んだレンズ状の上部を備えた円柱形の微小器官で,体表全体に散在するが,特に本種では蜜腺と気門の周囲に多く見られた.本種のPCOsは側面上部に4〜8つの三角状の短い突起を有し,特にこの形状はツバメシジミ類の近縁種Cupido minimusと酷似し(Baylis and Kitching,1988),その類縁性がうかがえる.この器官の表面からアリの体表物質に類似した組成の炭化水素やアミノ酸などが検出されるために分泌器官の一つとされる.その他の好蟻性器官として樹状突起(dendritic setae)が認められた.樹状突起はDNOの周辺や気門の周囲,前胸背楯板上などによく生じるが,本種ではDNOの両側の周囲のみに限られていた.DNOやTOsを持たない好蟻性の種の体表上にも散見されることや,物理的な刺激に対する受容器として機能することなどから,アリを感知する重要な感覚毛とされる.好蟻性器官以外の注目すべき構造として,体表全体に散在する剌毛が通常の針状の他にやや扁平なしゃもじ状となるものも少なからず見られた.この形状は好蟻性との関連性によるものと考えられる.また,ソケットの多くは星形をしていたが,これはヒメシジミ族に広く見られる形状である.さらに今回の調査では,幼虫に随伴するアリとしてルリアリ,ヒゲナガケアリ,ハダカアリ,ツヤシリアゲアリ,ミナミオオズアリ,オオシワアリ,トビイロシワアリの7種を記録した.このうちトビイロシワアリを除く6種は,本種の共生アリとして初記録の可能性がある.このように複数種のアリ類との関連が確認された結果から,おそらくクロツバメシジミの好蟻性"任意的共生関係"と考えられるが,今後は九州以外の本州から四国にかけての他地域での好蟻性や共生アリなどの調査も必要であろう.