著者
三神 弘子 KO J.-O.M. KO J.-OM
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度の主要な研究目的はジェンダーと〈クイア〉および異形の身体表象という視点で映画を体系的に考察することであった。研究代表者、三神は、マーティン・マクドナー作のアイルランド映画『In Bruges』(2008)を考察し、道徳的タブーを覆すために、小人症などに代表される〈フリークス=異形の者〉を登用するケースを論じるとともに、映画に登場するヒエロニムス・ボッシュの絵画「最後の審判」の中の〈異形の者たち〉との関連性を考察することによって主人公の内面の楝獄/地獄が観光都市ブルージュと結び付けられていることを議論した。外国人特別研究員、高は〈クイア〉という視点では松本俊夫による『薔薇の葬列』(1967)を分析し、ゲイボーイの身体表象を映画のリアリズムと関連付けて考究し、「ジェンダーとエスニシティ」のテーマにおいては、大島渚による『日本春歌考』(1967)を考察し、映画内という枠組みを超えて、より広範な社会・文化的文脈との関連性をからみあわせて考察を試みた。さらに『日本春歌考』の中で歌われる『満鉄小唄』に想起される、従軍慰安婦の問題を1950年代の戦争アクション映画における表象の考察に発展させを論じた。三神による研究はこれまでのアイルランド映画研究の主要テーマであったナショナルアイデンティティや〈アイリッシュネス〉の表象を踏まえながらも身体表象、絵画、またマクドナーの演劇作品との隣接性に焦点を当てることで従来のアイルランド映画研究に新しい視点とメソドロジーを提供し多大な学術的貢献をしたといえる。高の研究も、従来の日本映画研究ではほとんど論じられることのなかったリアリズムと身体表象、エスニシティとジェンダーという錯綜するテーマを取り上げることにより、既存のジェンダー・セクシュアリティ、クイア表象研究の枠組みを発展させる重要な役割をもつといえる。