著者
神庭 重信 Kanba Shigenobu
出版者
福岡医学会
雑誌
福岡医学雑誌 (ISSN:0016254X)
巻号頁・発行日
vol.95, no.11, pp.281-285, 2004-11-25

外傷後ストレス障害(PTSD)は,テロや阪神淡路大震災などを機に一般社会にも広く認識され,受診患者数も増加している.PTSDの中核症状としては,①過覚醒(交感神経系の亢進状態が続き不眠やイライラなどが認められる),②再体験(原因となった外傷的な体験が意図しないのに繰り返し思い出されたり夢に登場したりする),③回避(体験を思い出すような状況や場面を意識的あるいは無意識的に避け続ける),および④感情や感覚などの反応性が麻痺する,の4つが挙げられる.こうした臨床症状の生物学的本態は,強度の情動ストレスを受けたという記憶(情動記憶)が強く刻み込まれてしまうことにあると考え,動物モデルをもちいて,PTSDのメカニズムの研究を進めてきた.そのターゲットは,海馬における,CREBと呼ばれる遺伝子転写調節因子のダイナミクスと神経新生と呼ばれる現象である.ここではその一部の結果を紹介する.