- 著者
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神庭 重信
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.128, no.1, pp.3-7, 2006 (Released:2006-08-29)
- 参考文献数
- 11
- 被引用文献数
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あらゆる疾患の原因は,遺伝子と環境とで説明できる.たとえば,交通外傷は環境が,血友病のような遺伝子疾患は単一遺伝子が原因である.そしてがん・糖尿病・高血圧などの生活習慣病の発症には遺伝子と環境による同程度の寄与が推定されている.精神疾患の多くは,これら生活習慣病に類似しており,遺伝子の影響と環境の寄与がほぼ同程度であると考えられている.環境が精神疾患の発症に関与するとして,それには大きく二つの関わり方がある.一つは,精神疾患の発症脆弱性を作る環境ストレスであり,他は精神疾患の発症の誘因としてのそれである.発症脆弱性の形成に関わるストレスとして問題になるのは,幼弱期の環境である.胎児期から幼少時期,脳が発生・発達しつつあるとき,脳は環境への感受性が高く,かつ好ましい環境を強く必要とする.たとえば胎児期であれば,妊娠中の母親の受けるストレスが脳発達に影響することが知られている.また幼少時期であれば,親子関係を中心とする家庭環境の影響は極めて大きい.同じ遺伝子を共有する一卵性双生児でも,形質に違いが見られ,統合失調症や双極性障害で不一致例がみられる.これは一卵性双生児のおかれたおなじ生活環境でも,個々人のユニークな体験が重要であることを意味する.さらに言えば,発症に予防的に作用する環境もあれば,促進的に作用する環境もあるだろう.本稿前半では,環境と遺伝が精神疾患にどのように関わっているのか,その最新の知見を説明し,後半では,心理的ストレスが脳の微細構造,なかでも海馬の錐体細胞の萎縮あるいは神経新生に影響を与えることの実験的証拠を紹介する. 本特集は,万有生命科学振興国際交流財団主催のセミナーを元にしたものです.