著者
津曲 敏郎 Kanchuga Aleksandr Aleksandrovich
出版者
北海道大学大学院文学研究科北方研究教育センター = Center for Northern Humanities, Graduate School of Letters, Hokkaido University
雑誌
北方人文研究 (ISSN:1882773X)
巻号頁・発行日
no.4, pp.75-93, 2011-03

ここに紹介するのは、A.カンチュガ氏によるウデヘ語自伝テキスト第2巻に収められた民話(nima ku)の1篇である。原著者自身によるロシア字表記と録音をもとに、ローマ字音韻表記にあらため、文法分析と英訳を加えた。話のあらすじは次のとおり:ソロモという若者が嫁をもらったが、この嫁の正体はキツネで、あるとき夫を槍で刺し殺し、棺に入れて川に流す。棺は途中二度にわたり、下流に住む女の岸に流れ着くが、いずれもかかわりを嫌った女たちによって流れに押し戻されてしまう。三度目にたどり着いた岸で、タウシマという女に引き上げられるが、棺の中には髪の毛と小指しか残っていなかった。彼女はみずからシャーマンの儀式を行って、三日後に若者の身体と命を取り戻す。二人は一緒に暮らし始め、やがて結婚して、ソロモの両親のいる故郷の上流に向かって漕ぎ出す。途中で例の二人の女のもとに寄るが、事情を知って悔んだ女たちはそれぞれ首をくくってしまう。故郷の近くでもとの妻であるキツネに出会い、彼女がソロモの幸せを願いながら両親の面倒を見ていたことを知る。タウシマとともに両親のもとに帰り、四人で暮らし始める。ソロモとタウシマは長生きしてたくさんの子どもに恵まれた。