著者
神崎 隼人 Kanzaki Hayato
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.41, pp.129-144, 2020-03-31

人間学・人類学 : 研究ノート近年、いわゆる「存在論的転回」を巡って、日本語でも議論や情報共有が広がってきた。そうした「転回」の新たなアプローチとして、「ポリティカル・オントロジー(以下、PO)」が提案されている。本稿では、これらの論者の著作を検討し、POの分析方法を整理することを目的とする。これまで、天然資源開発や環境保全と先住民との間のコンフリクトの分析では、普遍の「環境」が大前提とされてきた。それに対しPOは、先住民にとって「環境」とは全く異なった実在が大前提にあることに注目する。この前提において、P Oは、コンフリクトに至るまでにどのような人間と非人間の関係性が作り上げられたか(歴史的コンテクスト)、その中で先住民は非人間についてどのような概念や実践を通じて関わっているのか(在来の概念)、そしてどのように西洋の存在論が、先住民の世界を「信仰」や「文化」に還元し、政治の領域から排除してきたのか(存在論の力関係)を、明らかにする。さらにP Oは、人類学者と人びとの間の「会話」というミクロな場を考察する。こうした場には、同じ語や概念を使って対話する両者が、異なる世界を跨いでいるために経験する根本的な「誤解」があり、異なる存在論の間の緊張を伴う交流が浮かび上がるのである。こうした分析からPOは、" われわれ" が「自然」と扱ってきたものの多数性や可能性、そして「多元世界」の政治に対する想像力を、喚起することを試みる。